2023 Fiscal Year Annual Research Report
地方档案史料による清代中国基層社会の構造研究―都市・農村の社会圏を中心に
Project/Area Number |
22H00704
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
水越 知 関西学院大学, 文学部, 教授 (90609538)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 秀光 京都大学, 法学研究科, 教授 (30361059)
谷井 陽子 天理大学, 文学部, 教授 (40243092)
伍 躍 大阪経済法科大学, 国際学部, 教授 (60351681)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | 档案 / 社会圏 / 都市 / 清代 / 女性 / 法制 / 訴訟 / 家族 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)地方档案史料の研究基盤整備:関西学院大学所蔵の档案史料および新規にマイクロフィルムを電子化し、3,000件程度の案件について簡易目録を作成し、研究グループおよび清代档案史料研究会の参加者に提供した。また『巴県档案(同治朝)』の「地権」分類についても電子化と整理作業に着手し、マイクロフィルム4リール分488件の档案を新たに史料に加えた。 (2)清代档案史料研究会を10回開催し、研究代表者・分担者のほか、木下慎梧(東京大学東洋文化研究所)・土肥歩(同志社大学)・張九龍(関西学院大学研究員)・小野達哉(大阪経済法科大学)・岡田悠希(日本学術振興会特別研究員)の各氏による史料会読、研究報告を行った。『巴県档案』のほか、『軍機処档案』『冕寧県档案』などの清代の档案史料、および清代・近現代のさまざまな「档案」や周辺史料を用いた研究報告が行われた。研究代表者は、研究会の活動内容について過去の経緯から現在の活動まで紹介する文章を『法制史研究』(台湾)で公刊予定であり、その過程で多くの研究者に内容を知らせることができた。 (3)研究分担者の研究成果:伍躍は引き続き档案史料を利用した身分の社会移動、冒捐冒考の問題に関する行政訴訟について研究し、「従“擅食田園瓜果”律看伝統中国的社会治理――以財産秩序中的青苗会為分析対象」などの論考を公刊した。鈴木秀光は「清代における裁判記録管理の法的意義――吏律公式「棄毀制書印信」条、条例を起点として」の研究報告などを通じて、州県レベルで作成される裁判記録の意味を問い直す提言を行った。谷井陽子は重慶の商業史に関して「18世紀重慶の商業界とその秩序」の題目で研究報告を行った。 (4)2024年3月に研究協力者である北京大学社会学系の凌鵬氏と連携し、北京大学における学術交流と中国国家図書館・中国第一歴史档案館での資料調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)地方档案史料の研究基盤整備については、関西学院大学所蔵の紙媒体の档案史料に加えて、電子化されたものについても目録を作成し、作業全体としては順調に進んでいる。『南部県衙門档案』との比較考察については、図書館に配置して利用環境を整え、研究会の参加者からそれを利用した研究業績も公刊されるなど、実績として現れつつある。 (2)清代档案史料研究会を通じた研究活動は順調に実施できている。年度を通じて対面形式とオンライン会議方式の併用で実施しし、研究者間の交流も活発に行っている。中国や台湾・韓国からもオンラインを通じて参加者があり、国際的な学術交流も進めることができている。。 (3)地方档案史料のデータ抽出、分析に関する議論は具体的なデータ抽出作業は十分には進められていないが、従来研究蓄積のある「婦女」「家庭」分類と関連する「地権」分類のなかの宗族・家族の土地紛争に着目し、その特徴について考察を進めている。 (4)研究分担者の個別研究はおおむね各自の課題について研究が進展している。とくに『巴県档案』以外の地方档案史料についての史料収集、分析を進めており、最終的な比較考察に結びくものと考えられる。 (5)海外資料調査に関しては、今年度の所期の計画であった重慶での現地調査に関しての実施が困難と判断して、中国の学術環境の現状把握、および人的交流の活発化を優先したが、いずれも今後の資料調査に大きく資するものと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)史料整理作業については『巴県档案(同治朝)』の「地権」分類の利用環境を整えることを中心とする。「戸婚田土」と呼ばれる民事的訴訟の代表的な事例である土地に関する紛争を概観できるようにすることで、社会構造の基本的な理解を進めていく。 (2)海外調査については重慶の現地調査を実施し、現地の環境・交通、また寺廟・碑文などの遺跡を調査することで文献研究にのみ限定されない多角的な考察が行えるようにすっる。 (3)研究成果の公開に向けて、シンポジウムの開催や研究報告書の内容に関して議論を進める。これについては清代档案史料研究会を通じて内外の研究者と学術交流を行い、研究組織メンバー各自の研究テーマを深化させるとともに、総合的なテーマ設定について検討する。 (4)研究会の会読資料として『南部県档案』の利用を進め、地域間の比較分析の観点についても積極的に議論していく。 (5)問題点として、海外調査の環境が十分整えられるか不透明な部分があるが、現地研究協力者と連絡を緊密にして問題解消を目指すほか、従来の地方志、調査記録などの文献史料の収集を進めて効率的な調査を計画する。あるいは調査不可能な場合は、档案史料の整理を充実させることで、文献研究の側面の強化に努めることとする。
|