2022 Fiscal Year Annual Research Report
縄文時代のヒスイ・コハクを用いた装身具の総合的研究
Project/Area Number |
22H00724
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
栗島 義明 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員(客員研究員) (60445864)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷畑 美帆 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10440174)
水ノ江 和同 同志社大学, 文学部, 教授 (10824568)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヒスイ / コハク / 勾玉・小玉 / 原産地遺跡 / 緑色石英 / 大珠 / 装身具 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではヒスイとコハクという貴石を用いた縄文時代装身具の多角的分析を目標として掲げており、研究年度当初ではヒスイ・コハクそれぞれの原産地での様相(産状・分布・形態等)についての地質・岩石学てきな知見理解及び把握に努めた。具体的な方針としては糸魚川市と銚子市のジオパーク室と共催で、石材の生成や産状、分布などを検討し考古学的な様相、特に加工遺跡の出土品(ヒスイ:長者ヶ原遺跡、寺地遺跡、コハク:粟島台遺跡)との関連性の把握に努めた。原産地に於ける踏査や岩石・鉱物学的な視点からの研究を参考とすることで、装身具素材の原産地での獲得が計画的且つ効率的に進められていた点が明らかとなり、その成果及び課題については第1回のシンポジウム(2022年12月10日)で公表した。 また、本研究の一つのテーマでもあるヒスイ・コハク原産地遺跡の発掘調査実施の可能性についても、糸魚川市と銚子市に打診を計った。しかしながらいずれの市域に所在する原産地・加工遺跡群は国・市の史跡指定範囲に含まれており、発掘調査が実施できる可能性は殆ど無いと判断せざるを得なかった。そんな中で一つの情報として、山形県最上町に所在する材木遺跡から緑色系石英を素材とした装身具製作(勾玉・小玉)が確認されている情報が寄せられ、ヒスイの代替石材として在地産石材を用いた装身具製作の可能性を考え現地調査を開始した。全国的にも装身具の製作跡は少なく、ましてやヒスイ代替石材の開発とその利用は九州地域で1箇所が知られているのみで、非常に重要と認識されるものであった。幸いにして緒権者と地元教育委員会からは調査に協力いただけるとの回答を得ることができ、23年度の調査計画を策定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度では、これまで考古学分野では低調であった原産地でのヒスイ・コハクの産状やその岩石学的な特徴について検討を進めることとした。本研究では糸魚川市(ヒスイ)と銚子市(コハク)の教育委員会・ジオパーク室からの協力を得て、地質・鉱物の視点からの検討が実施できた点は大きな成果であったと言える。学際的視点を加え資源開発とその活用という観点からヒスイとコハクを見直すことで、資源としての装身具素材石材という視点に加え、原産地遺跡との包括的比較を通じ、本格的なヒスイ・コハク製品の流通時期と原産地遺跡の活動期がほぼ重なることも明らかとなった。ヒスイ原産地遺跡資料の検討を踏まえ、そこでは製品化までの工程を完了してはおらず、原石や欠損品・未製品が圧倒的であり、装身具については素材段階の状態で広く流通していた可能性も浮上してきた。 また硬質石材(硬度7)であるヒスイ加工については不明な点が多かったが、今年度に出土遺物の再評価と検討を踏まえて製作工程の復元をおこなった。これまで原産地遺跡から出土している未製品とされた大半が、実はヒスイ製敲石と分類されるもので、装身具製作品ではなく磨製石斧製作に係わる遺物である可能性が指摘された。今後の「原産地での集中的なヒスイ加工」ちという理解も再考すべき点を提示できた。 以上の研究成果と浮上した課題については、年度ごとにシンポジウムを開催して広くその時点で得られた研究の成果と課題を逐一、研究者間で共有できるように計画した。当初年度ではあり、またコロナ禍直後ではあったものの年末には第一回のシンポジウムを開催した。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒスイとコハクを用いた装身具流通の実体解明に向かい、各地域に於ける遺跡出土品の集成を引き続き進めると共に、昨年の調査で明らかとなったようなヒスイ代替を担った在地石材の利用実態についても検討を進める。緑色石英については考古学的な製作工程の分析(原石・分割・整形・研磨)と共に、その性格や名称が不明であることから、鉱物学的な分析も今後は進めてゆく予定である。 縄文時代中期末(4,500年)を境として、それまで単体・大型であった装身具類は1cm以下の小型玉類へと変貌を遂げる傾向が顕著である。こうした変化についての合理的な説明はなされていないが、墓への副葬状態の検討から、その背後に垂飾から連珠への変化があったと想定している。この変化は単に装身具の変化に留まらずに装身原理、装身具の佩用が複数人物や複数世帯へと変化した社会的現象として評価可能と予想しており、各地の墓とその出土品の検討を踏まえてこの問題の検討も実施してゆきたい。 また研究成果については、年度内にシンポジウムを開催して研究者間での問題点の共有を実施する。
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