2022 Fiscal Year Annual Research Report
Provenance study of excavated amber by inelastic neutron scattering.
Project/Area Number |
22H00733
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Gangoji Institute for Research of Cultural Property |
Principal Investigator |
山口 繁生 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00752370)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (20379598)
植田 直見 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 琥珀 / 出土琥珀 / 産地推定 / 中性子非弾性散乱 / ボソンピーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は琥珀の新たな産地推定法を確立することを目的とした研究である。これまでにも、赤外分光分析(FT-IR)や熱分析などによる出土琥珀の産地推定が行われてきた。しかし、劣化している資料の産地推定は難しく、資料によっては産地推定を行うことが困難な資料もあった。そこで本研究では、中性子非弾性散乱法による琥珀の産地推定を試みる。中性子非弾性散乱法には、FT-IRなどの局所的な分子振動の計測と比べ多数の原子・分子の集団的な動きを捉えることができるため、アモルファス物質の圧縮状態(密度)を反映した分子の運動状態を鋭敏かつ定量的に分析できるという特徴がある。 本年度は、産地推定において標準試料とする各琥珀産地の現代琥珀を用いて中性子非弾性散乱実験を行った。実験には、原子力研究開発機構の研究用原子炉JRR-3に設置された、高分解能パルス冷中性子分光器「AGNES」を用い、5, 100, 300Kの3つの温度条件で行った。得られたデータのうち、100Kの中性子非弾性散乱スペクトルの低エネルギー領域(~1-2meV)においてボソンピークが観測され、そのピーク位置が琥珀産地によって異なっていることが確認された。ボソンピークは非晶質物質の非弾性散乱スペクトルの数meVの領域において観察される低エネルギー励起である。その起源については今なお議論がなされているが、試料の物質密度によってそのピーク形状が変化すると考えられている。一方、琥珀は古代の樹脂中のテルペン類が、地中の高圧・高温環境下で重合し化石化したものであり、産地毎で起源植物や地質年代が異なる。よって、それらの違いによって生じる密度差がボソンピーク位置の違いとして観察された可能性が考えられた。ただし、既知の地質年代とピーク位置との間に相関は見られず、ピーク位置に影響を及ぼす要因については今後研究を行っていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低温での中性子非弾性散乱実験において琥珀のボソンピークが観測できることを明らかにし、また、観測されるボソンピーク位置が琥珀産地で異なり、中性子非弾性散乱法による琥珀の産地推定の一つの指標となり得ることが確認できたため。 本研究では中性子非弾性散乱法で得られるデータとFT-IR、熱分析のデータを比較することで、産地推定の指標となっている物性に関する理解を深めるとともに、既存のFT-IR、熱分析による産地推定法の精度を上げる事も目的としている。この目的のため、本年度は熱分析を中心として測定を行い、順調にデータを蓄積することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
標準試料データベースの構築のため、未測定の琥珀産地の現代琥珀の中性子非弾性散乱実験を行う。また、ボソンピークとは異なる指標として、中性子非弾性散乱実験によるガラス転移点の測定を行い、産地による違いがみられるかの確認を行う。また中性子実験と並行し、FT-IRと熱分析のデータベース作成を引き続き行う予定である。
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