2022 Fiscal Year Annual Research Report
近世有田における「窯焼き」及び「赤絵屋」跡に見る肥前磁器の製作技術に関する研究
Project/Area Number |
22H00736
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
新免 歳靖 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (40759156)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
都築 由理子 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (20804529)
水本 和美 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80610295)
三浦 麻衣子 帝京大学, 付置研究所, 研究員 (80771261)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 肥前磁器 / 窯焼き・赤絵屋 / 原料製作技術 / 文化財科学 / 3次元計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、近世から近代における肥前磁器の生産技術、特に原料製造技術などに着目し、生産に関わる考古資料や民俗資料について自然科学的な手法を用いて調査し、その技術の解明を目指すものである。あわせて、近世・近代ものづくりにおける基盤技術の一つである粉体加工技術について、窯業を主体として異業種間での比較調査を行う。 本年度は、有田町の窯焼き(磁器製造業者)工房跡から出土した磁器原料などの再整理と鉱物分析を行った。本分析については来年度も分析を継続する。さらに、東京大学構内遺跡から出土した17世紀中頃から後半の肥前色絵磁器・染付磁器、中国景徳鎮磁器などの胎土・釉薬分析を行った。当該期の肥前磁器については、これまで古九谷様式の色絵磁器の分析にとどまり、当時の有田で生産された磁器全体の中での白磁素地の位置付けや、窯間での差異や原料の使い分けなどは不明であった。そこで、17世紀中頃から後半の肥前磁器や輸入磁器(中国など)を網羅する形で、磁器の胎土や釉薬、色絵具を分析し、それぞれの化学組成などから特徴を明らかにすることを目的とした。こちらは使用する分析機器の故障などによって分析が長引いたため、来年度も継続する。また、色絵磁器の色絵具原料として用いられた各種素材に関する調査を行った。ベンガラについては、岡山県高梁市吹屋においてベンガラ製造に関する調査行った。また、東京都内の近世遺跡から出土した鉛製白粉や赤色顔料の調査を行い、その材質や産地などに関する新たな知見を得た。窯業に関連する生産道具民俗資料・考古資料について効率的な調査と記録化を行うために、3次元計測を導入した。今年度は試験的に石碑、民俗資料などの計測を行い、計測方法の検証を行った。陶磁器の焼成技術調査として、伊万里市古椎新窯の聞き取り調査と3次元計測を行った。3次元計測の調査結果については、来年度のデータの整理を行い、検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
肥前磁器の生産技術解明に向け、遺跡出土資料の自然科学分析を実施しているが、本研究に主として用いる予定であった蛍光X線分析装置の不具合やICP発光分光分析の故障によって数か月間にわたり、分析作業が中断した。そのため、自然科学分析に遅れが生じているが、装置類は年度内に無事に復旧したため、来年度から遅れは取り戻せると考えている、 窯業地に残る生産関連の民俗資料調査や遺跡出土資料調査として、文献調査と現地調査を行ったが、より効率的に資料の記録化を目指して、資料の3次元計測を導入した。当初は計画していなかった方法のため、本年度はその方法の試験的運用と方法の習熟に時間を要した。そのため、当初の計画からは遅れが生じているが、本方法が問題なく導入された場合は、これまで未報告であった資料などの効率的な記録化が可能となり、非常に大きな成果が期待される。したがって、本方法の導入による遅れを十分に取り戻せると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も肥前磁器の生産技術・原料加工技術の解明を目的として考古学的調査、自然科学的調査を柱とした調査を実施する。あわせて、近世・近代における様々な物品の原材料となる粉体・粒体の製造技術に関する総合的な調査を進める。 佐賀県有田町の窯焼き工房跡(中樽一丁目遺跡等)から出土した磁器原料や磁器未製品などについての分析結果の再整理と偏光顕微鏡などによる鉱物調査を継続する。生産地遺跡資料の比較として東京大学構内遺跡から出土した有田産色絵磁器の自然科学分析を継続する。17世紀中頃から後半の色絵磁器を中心に、磁器胎土・釉薬・色絵具などの化学組成の産地間での比較や継時的な変化などを検討する。加えて色絵具の鉛同位体比分析も実施する。 近世磁器の原料加工技術の比較のためにベンガラと鉛白について調査を継続する。江戸遺跡から出土した資料の調査を行い、顔料の形態的・材質的な特徴を明らかにし、生産地や製作方法の検討を行う。色絵具の製造方法の比較として、材質的に類似した原料が用いられている近現代の七宝焼釉薬に注目し、七宝焼産地のあま市での七宝釉薬製造方法の記録化と大正期七宝釉薬の自然科学的調査を実施する。 日本全国の陶磁器産地の残る、主に近代に用いられた窯業道具については、詳細な調査や図化などの基本的な情報化が行われていない資料がある。窯業関連資料の効率的な情報化を目指して、多様な材質と形態からなる民俗資料に有効な3次元計測方法の開発や得られたデータの活用方法などの検討を行う。昨年度、近世から近代における陶磁器製作技術調査の一環として佐賀県伊万里市の古椎新窯の3次元計測と周辺住民への聞き取り調査を実施した。近世期の屋根が残存する登窯は極めてまれで、当時の焼成技術の復元などを行う上で貴重なデータを得ることができる。今年度は窯の3次元計測データの解析を進め、近世から近代の窯造りや焼成技術の検討を行う。
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