2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22H00855
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西村 幸浩 大阪大学, 大学院経済学研究科, 教授 (90345471)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 薫夫 福岡大学, 経済学部, 准教授 (00802737)
清田 耕造 慶應義塾大学, 産業研究所(三田), 教授 (10306863)
長谷川 誠 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (50722542)
高松 慶裕 明治学院大学, 経済学部, 教授 (90454016)
大越 裕史 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (90880295)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | パンデミック / 多国籍企業 / 公的資金の限界費用 / 最適課税 / グローバルミニマム税 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症による2020年の世界貿易の大幅な縮小による、世界貿易ネットワークにおける国の相対的な重要性が変化したかを考察した。特にASEAN諸国に焦点を当てて、2000年1月から2021年3月までの中心性の変化を追跡したところ、ほとんどのASEANおよび主要貿易国で、パンデミックが始まった後に中心性が大きく変化したという証拠は見つからなかった。この結果は対象国における貿易パターンの回復力を示すものである。 低い法人税率が経済統合よりも多国籍企業に有利なのかどうかを考察した。多国籍企業が生産工場と海外流通関連会社の所在地を選択し、移転価格を通じて利益を移転する場合、貿易コストが高いため、工場はまず税金の低い国に集中する。驚くべきことに、貿易コストが低くなると、このパターンは逆転する。実際、経済統合は非単調な影響を及ぼす。貿易コストの低下により、まず最初に減少し、次に高税率国における工場のシェアが増加する。このことは実証的に確認されている。さらに、移転価格の容認により租税競争が激化し、移転価格規制に関する国際的な調整が有益となる可能性がある。 個人と政府の両方による予防的行動を伴う最適な非線形所得課税に基づいて予防的政府支出の最適性を評価するために、公的資金の限界費用(MCPF)を考察した。予防的政府支出に関する最適条件は、(i) 予防的支出と消費の間のトレードオフが、高スキルと低スキルの個人の、所得再分配前の配分からの逸脱(ピグー効果)、また(ii) 模倣者が予防的な政府支出から恩恵を受けることを阻むための効果 に分けられる。MCPFが1より大きいかどうかは、これらの相対的な大きさによって決まります。さらに、政府が特定の政策にコミットできない場合、および個人のタイプが完全に分離されている場合のMCPFにおいては、ピグー効果を修正する必要があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年に続きSymposium of Public Economics (SOPE、オンライン)を開催し、欧米と日本から気鋭の報告者を集い、2日間の充実した学会を開くことができた(本研究課題からは研究代表者西村が報告、研究分担者清田が討論者)。研究の進展に関しては、研究計画書に書いたことに関連する、貿易ネットワークに関する実証研究(Kiyota (2022))、またパンデミックに関連した理論・実証研究(Kiyota (2022), Morita (2022))など多くを公刊することができた。また、税務執行が内生的な文脈において、OECDが推奨し、実践されているグローバルミニマム税は、低税率国が国際協調を拒むことを通じて、高税率国が当初望んでいた経済厚生の改善を阻むことを示したHindriks and Nishimura (2022)は、いくつかの国際学会で報告し、高い評価を得た。Mukunoki and Okoshi (2022)では、戦略的租税回避を軽減するための独立企業間原則 (ALP) が、タックスヘイブンの存在下で、多国籍企業のライセンス戦略と厚生に影響を与えることを示した。具体的には、類似取引の出現により多国籍企業の利益移転の機会が制限されるため、ALPの存在は多国籍企業のパテントライセンスを終了させ、さらに国内市場での競争に悪影響を与えることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
労働生産性と労働の不効用がheterogeneousなもとで、保険不可能なリスクに直面する納税者が就業選択と資産蓄積をする動態モデルにおいて、定常的な非線形の労働所得税ルールを検討する。労働所得税ルールは、長期的な家計の貯蓄行動と資産分布に重大な影響を及ぼす。静学モデルにおける最適参加税ルールの自然な拡張として、最適課税ルールを導出する。再分配時点での資産分配レベルに基づいて福利厚生を最大化することを目的とした場合と、資産配分が定常状態に達したときの社会厚生を最適化する長期最適税制ルールが考察可能であり、帰結は異なることが予想される。分析はシミュレーションを通じて行う。 2009年に、日本は、海外子会社が親会社に支払う配当金の本国課税を免除する税制(territorial regime)を導入した。この税制改革が日本の多国籍企業による利益移転に及ぼす影響を検証する。具体的には、同時期において全世界課税方式をとっていたアメリカと日本の多国籍企業の行動比較をすることで、日本企業が利益移転のインセンティブに反応したかどうかを考察する。 原産地規則 (ROO) を伴う自由貿易協定 (FTA) は、垂直統合された多国籍企業の原料生産場所に影響を与える。 FTAに誘発された企業移転により、多国籍企業内での決定権の配分が、集中から分散に変わり、移転価格の目的を、租税回避から製品市場の競争力強化という形で変化させる。すると、FTAにより関税が撤廃されるにもかかわらず、企業移転後の意思決定は、企業利潤や消費者厚生に負の効果を与えうることが予想される。本研究においては、国際課税と寡占企業の分析を組み合わせ、FTAと企業行動に関し新たな視点を提供することを目的とする。
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