2022 Fiscal Year Annual Research Report
Restructuring of Insurance Theory and Management in Aging Society: Focusing on Quantitative Analysis of Health Promotion Medical Insurance
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22H00864
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
諏澤 吉彦 京都産業大学, 経営学部, 教授 (50460663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米山 高生 東京経済大学, 経営学部, 教授 (00175019)
山本 信一 東京経済大学, 経営学部, 客員研究員 (90388108)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 健康増進型医療保険 / 健康意識 / 線形回帰モデル / 健康診断結果 / 生活習慣 / モンテカルロ・シミュレーション / 経済価値ベースのソルベンシー比率 / 新契約価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4~5年度は、研究計画の目的②「マイナスのモラルハザード」の実証、③医療費・保険金削減効果の高い健康関連変数の特定、そして④健康増進型医療保険引受けの保険会社の財務状況への影響の解明を中心に取り組んだ。②については、継続的健康診断受診の有無など個人の健康意識を代理する変数と健康状態・医療費との関係を解明するために、健康保険組合のレセプト情報から構築した大規模データベースを用い、線形回帰モデルに基づく分析を準備的に行った。その結果、直感的に理解できる仮説は実証されたが、より強靭な結果導出のためには、医療データに適合するモデルの再検討の必要性が認められた。③については、被保険者の生活習慣病に関わるBMIなどの健康診断結果と、運動習慣などの生活習慣関連変数が改善した場合に、医療費と医療保険金がいかに削減されるかを、同様のデータを用いモンテカルロ・シミュレーションに基づき最良予測を行った。その結果、変数の種類や対象者の年齢・性別による医療費および医療保険金削減効果が異なることが明らかとなった。④については、③において医療費・医療保険金削減効果が見込まれた健康診断項目としてBMI、血圧、HbA1cおよびALTを選択し、被保険者のこれらの値が改善した場合に保険料割引または還付金を付与する保険会社を仮定し、その経済価値ベースのソルベンシー比率がどのように変化するのかをシミュレーションに基づき最良予測を行った。その結果、いずれの健康診断項目の値が改善しても、保険会社の支払能力が強化されることがわかった。一方で同様のデータと分析方法に基づき、被保険者の運動、睡眠および食事を含む生活習慣が改善した場合の保険会社の新契約価値の変化を分析したところ、リスク指標として用いる生活習慣関連変数、そして保険料割引や還付金の水準によっては、保険会社の事業価値向上につながらない場合があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度の研究計画のとおり、健康保険組合から収集した健康保険の全ての被保険者の匿名レセプト情報に、年齢・性別などの属性情報、健康診断受診歴、健康診断結果、運動・睡眠・食事習慣などの情報を組み入れたデータベースを構築し、研究組織内で相互に利用可能なものとした。これを利用して研究実績の概要に挙げた「マイナスのモラルハザード」を、健康意識を代理するものとして健康診断受診歴証のデータを用いて計量分析を行った。また、同様のデータベースを用い、健康診断結果および生活習慣と、医療費および医療保険金との関係をシミュレーションにより最良予測を行い、医療費・医療保険金削減効果が一定程度見込まれる変数を特定した。さらに、それらの変数をリスク評価指標として用いた健康増進型医療保険の引受けが、保険会社の財務状況にどのように影響するのかを、経済価値ベースのソルベンシー比率と新契約価値に基づき分析を行った。その結果について、学術雑誌において発表する機会を得るとともに、国際学会において発表した。また、分析結果からは、保険が積極的に事故防止機能と損失軽減機能を持ち得ることが見いだされたことから、研究計画に挙げたリスクマネジメントの全体的体系の再構築と、そのなかでの保険の位置づけの再定義につながる、一定の学術的知見が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
計量分析を継続し、健康関連変数の対象を拡大するとともに、分析モデルの改良を図る。具体的には、大規模データ共有システムに、運動習慣、睡眠習慣、喫煙習慣および飲酒習慣といった生活習慣などの情報を順次取り込みデータベースを充実させる。そのうえでこれらを変数として個人の健康状態、健康意識、医療費および医療保険金との関係を継続して分析するとともに、分析モデルを再検証し、より有効な結果に向けて適宜改良する。同時に、医療技術の発展により、生活習慣病のなかでもとくにがんの治療期間が長期化し、そのための医療費も上昇していることから、がんの種類を細分化した分析を試みる。同時に、生活習慣病に加え、うつ病などの精神疾患が増加していることを受け、運動量や睡眠時間などの生活習慣が、精神疾患の発症と重症化にどのように影響するのかを、同様のデータベースを用いて分析する。分析結果に基づき、健康増進型医療保険のリスク評価指標として用いるべき健康関連変数を特定し、保険商品モデルを検討するとともに、保険料割引または還付金などのリワード付与に許容できる費用を推計する。さらに近年、従業員の健康増進と生産性向上をともに目指した健康経営の重要性が増していることを受け、保険会社が、保険契約引受け・維持、保険金支払いなどの一連の業務を行うなかで蓄積したリスク評価とリスクコントロールに関する技術知識を活用して、企業・組織を対象としてどのようなヘルスケア・サービスを提供すれば、健康経営推進に貢献し得るのかを分析し、長寿社会における新たな保険事業の役割と保険経営のあり方を探る。
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Research Products
(8 results)