2023 Fiscal Year Annual Research Report
集団で仕事をするときの行動決定に関わる神経基盤の解明
Project/Area Number |
22H01099
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
仲田 真理子 筑波大学, 人間系, 助教 (00792409)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 由美子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (20425739)
瀬戸川 剛 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (80840785)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 神経科学 / 社会行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、社会行動の神経基盤を解明するためのモデル動物として広く使われているマウスを用いて「集団で仕事を遂行する」という場面を実験的に再現し、以下について検討することを目的としている。 (1)集団で仕事を遂行するとき、他個体に関する情報処理や、作業や報酬の分配に関する意思決定は脳内でどのように行われ、どのような神経基盤で制御されているのか?(2)集団で仕事をする経験が、集団内での社会的相互作用と(1)の神経基盤にどのような影響を与えるのか?これらを分析することで、「集団で仕事をすることがヒトを含む社会的な動物にとってどのような意味を持つのか」という大きな問いに対する、答えの一端を明らかにしたいと考えている。 しかしながらこれまで、マウスに集団で仕事をさせるような行動実験課題は存在しなかった。そこで我々は、マウスが集団で1つのゴール(報酬の獲得)に向かって行う集団でのオペラント学習課題「綱引きタスク」を作成した。「綱引きタスク」は、ギロチンドアで隔てられた正方形のフィールド2面からなる、長方形のテストフィールドで行われる。マウスは最初にドアが閉まった状態で、スタートエリアに置かれる。ドアに刺さっている3本のロープを全て引き抜いたらタスク完了となり、ドアが開いて皿に乗ったペレットが設置されている報酬エリアに進むことができる。 課題遂行中の行動を詳細に解析することで、仕事が集団内の個体間関係にどのような影響をあたえるのか、また、逆に集団内の個体間関係が、仕事に与える影響についても検討を行った。さらに仕事の遂行や社会的情報の処理に関連すると考えられる脳部位の電気的な活動(LFP)を無線計測したいと考えている。複数の個体の神経活動を同時に計測することで、タスク中の神経活動だけでなく、一緒に仕事をする個体間で起こっているであろう神経活動の同期についても明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度に筑波大学で行動実験システムを立ち上げ、雄マウスを使った予備実験を行って、本学の実験環境においても同様に綱引きタスクを遂行させられることを確認した。23年度には、タスクを遂行すること自体が集団内における社会的地位(ヒエラルキー)の形成と維持にどのように影響するかを明らかにするため、1グループ3匹からなるICR成体雄マウスに11日間にわたって繰り返しタスクを行わせ、タスクを行った群(タスク群、6グループ)と、フィールドを探索するもののタスクを行わなかった群(コントロール群、6グループ)の行動を詳細に比較した。11日間のタスク期間の前後に、グループ内のヒエラルキーを同定するためにグループ内総当たり方式のチューブテストを行い、各グループにおけるランクが1位から3位の個体をそれぞれ同定した。その結果、集団でのタスクを繰り返し経験することにより、集団内ヒエラルキーが形成・維持され、社会的順位の低い個体に仕事が集中するようになることを明らかにした。タスク軍において、タスクの前後で順位が変わらなかった個体の11日間の仕事回数の変化についてシグモイド関数を用いてフィッティングを行ったところ、1位の個体、2位の個体はタスクの繰り返しとともに仕事回数が減少していったが、3位の個体はほとんど仕事回数が減少しておらず、仕事が順位の低い個体に集中していく様子を示すことができた。行動実験の結果については、現在論文を執筆中であり、投稿準備を進めている。 電気生理実験については、有線でAnterior Cingulate CortexをターゲットにしてLFPを計測するという予備実験を進めてきた。24年度からは、無線計測システムを用いた実際の計測に入る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
行動実験については、これまで行ってきた「綱引きタスク」の実験結果とあわせて、論文をPNASなどの国際誌に投稿し、出版する。今回報告した成果と綱引きタスクそのものの紹介に加え、これまで行ってきた「1匹でタスクを行った場合と複数で行った場合の比較」「報酬エリアに置かれたチョコレートペレットが、タスクのパフォーマンスに与える影響」「タスクを行うときのドア前での待機行動」「上位個体による下位個体の報酬エリアからの追い出し行動」などにも焦点を当てた解析を記述し、インパクトの高い論文にしあげたい。 さらに、集団同士を競合させる「対戦綱引きタスク」のルールを確立させ、複数の仕事をする集団が競合する実社会の状況により近い状況を、実験的に再現する。予備実験の結果から、マウスは綱引きタスクで対戦できる可能性が示唆されているので、今年度はよりプラクティカルに再現性が高い実験条件の確立を目標に、行動実験を継続する予定である。 電気生理学的実験については、大阪大学の海住先生より無線計測システムを提供していただけることとなった。記録に使う電極や、電極とヘッドアンプとの接続方法などについても議論を進めており、これから試作機を使って実際の記録に入るところである。海住システムでは理論上は3匹以上での同時計測が可能であるため、まずは1匹で安定してターゲット部位であるAnterior Cingulate Cortexから記録できる条件を確立するとともに、可能であれば、今年度は1グループ、つまり3匹を同時に計測し、行動中の神経活動について記録・解析を行う。 最終的には対戦綱引きタスクにおける6匹のマウスでの同時計測にチャレンジし、集団同士の競合中に脳内でどのような情報処理が行われているかを明らかにしたいと考えている。
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