2022 Fiscal Year Annual Research Report
自己超越的感情の生起メカニズムに関する心理・生物・情報学的研究
Project/Area Number |
22H01103
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野村 理朗 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (60399011)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河原 大輔 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10450694)
高橋 英之 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 特任准教授(常勤) (30535084)
西平 直 上智大学, グリーフケア研究所, 教授 (90228205)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自己超越的感情 / 自然 / 東洋思想 / 自然言語処理 / 畏敬 / 無心 / 俳句 / 川柳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自然環境および言語芸術に注目して、非言語的および言語的な側面を比較しつつ、自己超越的感情の生成条件、心理・生物学的基盤を包括的に明らかにすることである。そのために心理学、情報学、哲学等の研究領域を横断することにより、人間の本性・可塑性の一側面を明らかにすべく、今年度は以下の研究成果を得た。 まず自然環境を源泉とする言語芸術の一つとして俳句に着眼し、その先立つ鑑賞と創作により、曖昧性への耐性が高まることなどを見出した。また俳句を収集し、その各々から生じる感情価・覚醒度・美しさ等主観評定値の収集と並行して、それらを学習データとしてこれらを推定する自然言語処理モデル(汎用文脈言語モデルBERT)を構築して一定の推定精度を得た。また、自己超越的感情の一種として知られる「畏敬」は、原則利他性や主観的幸福感に寄与するものであるが、自然界の脅威を源泉とする畏敬体験(Thread-awe)は、相互依存的な自己観に通じて個人の無力感をもたらしうる可能性も研究成果の一部として示唆された。 また、このように多面的な自己超越感を引き起こすシステムを開発した。具体的には、自己主体感を減衰させることにより、自己超越的感情をコントロールする。このデバイスを用いて、実際には自分単独で意思決定を行っているのにも関わらず、視覚と触覚の提示によって他者の存在を感じさせることにより、自己を超越した形で意思決定をしているという感覚がユーザーに付与されうることを見出した。さらには、自己超越的感情の非言語的特徴を解明するために、西田哲学を考察し(「西田哲学と「東洋的世界観の論理」-『日本文化の問題』再考」)、かつ荻生徂徠を検討し(「「自得する」ということ-荻生徂徠の学習論・稽古論・教育論」)、東洋思想の理論枠組みに即して自己超越的感情の考察を深めてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的の多くを期待以上に達成できた。その理由は以下のとおりである。 まず自然界を源泉とする言語芸術は川柳にまで視野を広げ、心理指標を予測する自然言語処理モデルを開発した。具体的には川柳に適した言語モデルであるSenryuBERTを構築した。さらに、クラウドソーシングによって、川柳5,000句に対して、自己超越的感情に関連すると考えられる8つの心理指標および総合評価を付与し、それに基づいて各指標・評価を予測するモデルを構築した。本モデルの予測結果の分析を通して、作成した心理指標およびモデルの有効性を確認した。 また、自己超越的感情を賦活するシステムはそれにとどまらず、意思決定課題を用いた評価実験を行ったところ、集団浅慮を単体で引き起こせることなどの示唆も得た。さらに身体に関する日本の思想は、芸道・武道の観点から解き明かす作業も継続し(例えば「守・破・離の「離」-稽古とは一より習い十を知り、十よりかえるもとのその一」、「守・破・離の「破」-守から破へと折れ曲がり、破から離へと折れ曲がる」、「守破離の「守」-「守」がなければ「破」も「離」も生じない」こと等)多角的に理解を深めて来た。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、自然界を源泉とする自己超越的感情の生起にともなう心理・神経基盤についての検討をさらに進める。また前年度に構築した自然言語処理モデルを改良しつつ言語芸術の生成に多角的に取り組む。すなわち生成モデルに心理指標予測モデルを取り入れることによって、自己超越的感情を含む心理指標の良さを分析、検討することを目的とする。 また前年度に開発した自己超越感を喚起させる「システム」を、ポジティブな自己超越的感情を引き起こすことを可能とするようデバイスの新たな開発と評価実験を進める。さらには身体に関する日本の思想の解明を継続し、近代日本における身体の思想を検討し、身体の思想と近代スポーツの関連を問い、日本思想における「修養」の意味を問い直す。以上の試みを通じて、自己超越的感情の言語・非言語的側面についての研究を多面的・系統的に推進してゆく。
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