2022 Fiscal Year Annual Research Report
Singular limits in nearly integrable quantum systems and complex dynamical systems
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22H01146
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
首藤 啓 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (60206258)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 豊 九州大学, 数理学研究院, 教授 (20304727)
池田 研介 立命館大学, 理工学部, 授業担当講師 (40151287)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子カオス / 近可積分ハミルトン系 / 量子トンネル効果 / カオス / 特異極限 / 超近可積分系 / ジュリア集合 / 複素半古典理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
系が非可積分になると固有関数のトンネルテールには可積分系には見られない様々な構造が見られる.その結果,非可積分系でのトンネル確率は可積分系と比較して,場合によっては数桁から数十桁に及ぶこともあるが,その異常増大の起源には未だ十分な説明が与えられていない.可積分系のトンネル効果と非可積分系のトンネル効果には,このような現象的なレベルで大きな差異が見られるものの,これまで解析の対象とされてきた系は指数的に小さい効果であるトンネル効果を調べるには複雑過ぎるきらいがあった.一方,不確定性関係が支配する量子力学では,プランクセルスケールより小さい古典構造がその波動関数に反映されることはない.従って,プランクセルスケールに非可積分性の痕跡が一切認められない状況下では,素朴にはその波動関数に古典位相空間の性質が反映されることは期待されないことになる.ここでは,その予想に反して,可積分系に微弱な摂動の加わった「超近可積分系」においても,量子波動関数の指数関数的に減衰する裾に自明でない階段構造が出現することを任意精度計算を実行を実行することにより見いだした.超近可積分系においては,プランクセルスケールに,非線形共鳴,カオス軌道など,非可積分性由来の構造は現れないことから,従来から非可積分系のトンネル効果を理解する枠組みとして採用されてきた,Resonance-assisted tunneling(RAT)機構を排除した設定になっている.また,この結果は,量子波動関数の裾に見られる階段構造の起源を実位相空間上のいかなる構造にも求めることはできないことを意味する.さらに,ここで観察された階段構造は,Baker-Campbell-Hausdorff公式を用いて構成した可積分基底を用いた摂動論を実行することにより,外場との量子共鳴によって発生していることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は以下の3つの研究課題を推進することを目標としている.1) 近可積分系の微細古典構造とトンネル軌道の干渉.2) 可積分極限の特異性とトンネル確率の特異的増大.3) 両生複素軌道と異種量子局在の相関.今年度は主として,課題1),および課題2)を中心に研究を進めた.特に,【研究実績の概要】欄に記した超近可積分系における超高精度計算による異常トンネル効果の発見は,このあとの研究の明確な方向付けを与えるもので,大きな成果と考えられる.何より大きいのは,超近可積分系という,非可積分系のトンネル効果を解析するための単純な状況を見出したことである.従来の非可積分系のトンネル効果の研究は,いわゆる混合位相空間をもつ非可積分系(規則領域とカオス領域が位相空間内に同程度の割合で共存するような系を)を用いて行われてきたが,トンネル効果は指数関数的に小さな効果であるため,様々な種類の不変集合が位相空間内に複雑に共存するような混合系では真に非可積分性由来の性質を抽出するのが困難な状況にあった.超近可積分系では,複雑な不変構造の出現を極力排除し,プランクセルのスケールには非可積分由来の構造がない状況を準備することによって,問題の切り分けを可能にする.そして,そういった状況にもかかわらず,可積分系には見られない特異的な階段構造が観測されたことの意味は大きい.このことから,これまでトンネル確率の異常増大を説明するシナリオとして有力視されてきた,いわゆるRAT機構が実は非可積分系固有のものではないことがわかる.このことは,問題の重要性が指摘されてから既に30年近く経った,非可積分系のトンネル効果の問題がここにきて大きな転換期を迎えたことを意味する.本研究の課題として挙げた2)および3)も今年度の発見を踏まえた上で新たな展開が期待されることは間違いない.
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Strategy for Future Research Activity |
最初に取り組むべき課題は,初年度に見出された超近可積分系波動関数に現れる階段構造の古典的な起源を探ることである.トンネル効果による遷移は,純量子論的現象であるため,通常の古典力学をもってしてはいかなる意味でも解釈不能な現象である.しかしながら,古典力学を複素領域に拡張すると,実領域をつかっては遷移することのできなった量子遷移を表現することができる.具体的には,経路積分表示された量子論の時間発展演算子を鞍点近似によって近似する際,得られる鞍点を実解のみに限らず複素解まで拡張して考えることにより量子遷移を(複素)古典力学を用いて記述することができる.我々は,本研究課題に先立ち,非可積分系(とくに離散写像モデル)においては,その鞍点が複素空間の前方Julia集合と呼ばれるカオス的な振る舞いをする集合によって与えられることを示し,さらに,前方Julia集合をよく近似する複素安定多様体が非可積分系のトンネル遷移の担い手であることを示した.今後は,この事実を出発点として,超近可積分系に見出された階段構造の古典的な起源を探っていく.超近可積分系を調べる際に重要となってくるのは,超近可積分系には対応する実位相空間にカオス領域がほとんどない(プランスセルのスケールに対比して)ため,主として混合位相空間をもつ系を念頭に提案した「複素安定多様体機構」が働いてない可能性が高い.そこで,ここではそれに代わって,「複素回転領域機構」を検討することによって超近可積分系波動関数に現れる階段構造発現の理由を考える.具体的には,超近可積分系の複素空間内の任意の回転領域は系のジュリア集合上の軌道が媒介する事実を用いて,寄与する複素軌道間の干渉効果を考えていく.外場と共鳴する状態間を遷移する複素軌道の作用実部に注目することにより,干渉効果の有無を検討していく.
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Research Products
(9 results)