2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22H01158
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
堀越 宗一 大阪公立大学, 南部陽一郎物理学研究所, 特任准教授 (00581787)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
筒井 翔一朗 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 客員研究員 (30808803)
土居 孝寛 大阪大学, 核物理研究センター, 特任助教(常勤) (50804910)
田島 裕之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80804278)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 冷却原子実験 / 冷却原子理論 / フェルミ粒子系 / 超流動 / 負符号問題 / 量子多体系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は極低温6Li原子気体を光トラップ内に閉じ込めFFLO相に関する検証研究を進めている。本年度はフェルミ面のズレが大きいs波相互作用する2成分フェルミ気体を実現するため、6Li原子のp波フェッシュバッハ共鳴の非弾性散乱の性質を用い、特定のスピン状態の原子のみをトラップから任意の量を減らす実験手法を確立した。これによりフェルミ温度の0.1倍程度の低温状態のスピンインバランスフェルミ粒子系をトラップ中に実現した。このフェルミ粒子系を2次元トラップに閉じ込めるため、532nmの光源を導入し、レーザー周波数の安定度や干渉性を確認し、アコーディオントラップの開発を進めた。また、散乱長が発散しているユニタリー極限において、フェルミ面における離散化された量子状態の影響が状態方程式に大きな影響を与えている事を示唆する非常に興味深い実験結果が得られた。上記の内容は日本物理学会で報告した。 理論班では、冷却原子気体と高密度物質に共通して重要なクロスオーバー現象の理論研究を推進した。3成分フェルミ原子気体の束縛3体分子からクーパートリプル(超伝導体中のクーパーペアの3体版)へのクロスオーバーを記述するダイアグラム展開法の理論を元に、密度誘起ハドロンクォーククロスオーバーの微視的機構を議論した。本研究内容は学術雑誌Symmetryで公開されている。上記はフェルミオン由来の符号問題が現れる系における新奇な多体現象の一例としてFFLO相のようなエキゾチックな超流動状態との関連も期待される内容である。また、フェルミ面のズレが大きいs波相互作用する2成分フェルミ気体において媒質誘起p波超流動の発現が議論されているのに対し、s波とp波の相互作用が共存するような場合のペアリングおよびトリプリングの競合についても理論的に調べ学術雑誌Physical Review Bに学術論文としてまとめ報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FFLO相検証のために実験で要求されているのは、①2次元ボックスポテンシャルの生成、②クーパー対の重心運動量分布の観測、③方向依存性を持つフェルミ面の実現、④状態方程式の定量測定である。①に関しては本研究費で532nmのレーザー光源を導入し、2次元トラップを実現するアコーディオントラップの開発に着手している。②に関してはスピンバランス系でクーパー対の重心運動量分布の観測まで到達した。さらに運動量分布を高精度で評価するため、長距離作動の対物レンズを市販のレンズを組み合わせることで作成し、十分な空間分解能(3μm)が得られた。③に関しては今後着手していく。④に関しては理想フェルミ気体とスピンバランスユニタリーフェルミ気体を用いて進めているが、低温領域で先行研究とは異なる振る舞いを示している。この原因を探ることが我々の測定精度を担保する上で喫緊の課題であることが判明した。 理論計算の当面の目標は、2次元および3次元のスピンインバランスフェルミ気体の第一原理計算を実装することである。昨年度は、2次元のスピンインバランスフェルミ気体の第一原理計算コードを開発した。ただし、1次元の計算に比べて必要な計算量が多く、実験結果と比較できるような現実的なパラメータでは計算が実行できない状況にある。この問題を解決するためには、理論計算のボトルネックとなっている逆行列計算方法の改善をする必要がある。現在、Sherman-Morrison公式を用いた逆行列計算の方法によりこの問題を解決できる可能性を発見したので、現在数値計算コードを改良し、そのテスト計算を行っているところである。また、FFLO相秩序やFFLO相転移に起因した超流動揺らぎの非一様性を探るにあたり、対相関関数の計算が重要となる。第一原理計算と並行して、ダイアグラム展開法や変分法による対相関の解析方法の開発にも取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験の喫緊の課題はスピンバランスユニタリーフェルミ気体の実験で見られている先行研究とは異なる振る舞いの状態方程式の原因究明である。技術的に疑わしい箇所は原子数を評価する時に用いる吸収断面積の確度である。現在新たな吸収断面積の構成方法を開発中であり、来年度前半で開発が済み評価が行える見込みである。物理的に疑わしい箇所はトラップポテンシャルの振動レベルの量子化である。これはトラップの振動エネルギー間隔が系の温度と同じオーダーで且つ、トラップの対称性がよい時に状態密度が疎になることで生じる可能性が指摘されている。現在トラップ系の楕円率を自由に調節できる実験系を開発しており、こちらも来年度前半で開発が済み評価が行える見込みである。2次元トラップ系用アコーディオントラップは安定度と制御性が求められ、その手法を確立するのが来年度の目標である。 理論班はSherman&-Morrison公式を用いた逆行列計算の方法を開発した。今後はこの方法を含めた計算手法の改善を目指し、3次元のスピンインバランスフェルミ気体の第一原理計算を現実的なパラメータセットで実行できるよう研究を進める。また、等方および非等方なトラップポテンシャルを理論計算でも導入することができている。非等方なフェルミ面を実現するための一つの方法として今後も活用する予定である。研究開始当初から想定しているクーパー対の重心運動量分布に加え、理論計算が可能でかつ実験と比較可能であり、さらにFFLO超流動の性質(クーパー対の束縛エネルギー、フェルミ面のずれ度、フェルミ面の縮重度)が如実に反映される物理量の検討も重要な課題である。FFLO相と競合する状態が存在する場合は、その競合現象を捉える物理量の計算も興味深い課題である。そのために、計算コストが少ないダイアグラム展開や変分法を用いた系の詳細な物理量の解析を進めることも予定している。
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