2022 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道相互作用が誘起するフェルミ液体不安定性と奇パリティ多極子秩序
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22H01178
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣井 善二 東京大学, 物性研究所, 教授 (30192719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山下 穣 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10464207)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | スピン軌道結合金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cd2Re2O7は、Re5+イオンが四面体からなるパイロクロア格子をもち、2個の5d電子が遍歴する金属物質となる。Ts1 = 200 Kと Ts2 = 120Kで逐次転移を示し、Tc = 1.0 Kで超伝導になる。結晶構造は高温の立方晶からTs1で空間反転対称性を失い、僅かに歪んで正方晶(Ⅱ相)となり、Ts2で別の正方晶(Ⅲ相)に変化する。2つの転移で電気抵抗の変化など劇的な物性変化が起こることから、電子系の不安定性を起源する相転移と考えられている。昨年度の研究では、5d電子系パイロクロア酸化物Cd2Re2O7におけるスピン軌道相互作用の役割とそれを起源とするフェルミ液体不安定性の理解のために、対称性の破れを伴う逐次相転移における構造変化を詳細に調べた。良質な単結晶試料を用いて高分解能放射光X線回折実験を行い、Ⅱ相、Ⅲ相の結晶構造の空間群が確かにI-4m2、I4122であることを示した。さらに新規な発見として、2つの相の間の100-120Kの狭い温度範囲に、これまで知られていなかった直方晶相F222が存在する事を明らかにした。この相を、高圧下ですでに報告されているX相までに続くものとして、XI相と名付けた。格子定数の温度変化を精密に決定し、すべての転移が2次転移であること、XI-Ⅲ相間で格子定数が特異な温度変化を示すことを明らかにした。これらの結果はスピン結合金属における多様なフェルミ液体不安定性の存在を明示するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画として、Cd2Re2O7の良質な単結晶育成、放射光X線回折実験、NMR実験を行うことを想定していた。前者2件に関しては順調に実験及び解析が進み、上記の成果が得られた。一方、NMR実験に関しては、装置トラブルやマンパワーの問題で思ったように進んでいない。それについては来年度の研究において集中して実験を行い、論文にまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、これらの逐次相転移の起源に迫るため、Cdと17O原子核のNMRを併用する実験を進める。Cd NMRはパリティの破れには鈍感であるが、酸素サイトではパリティが破れるだけでNMR共鳴線が分裂し、さらに対称性の異なる二つの酸素サイトの結果を合わせることによって、低温相のOPを精密に決定できると予想される。そのために、酸素サイトを17Oに置換した高品質のCRO結晶の育成し、これを用いて、山下(分担研究者)、武田(協力)、瀧川(協力)が磁場中精密回転機構を備えた既存のNMR装置により17O核のNMR実験を行う。一方、単結晶の111面を用いたラマン散乱実験を行い、第一原理計算結果を合わせて、低温相の対称性を吟味する。また、ランダウ理論に基づき、相転移スキームの定式化を行って理解を深める。
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Research Products
(4 results)