2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22H01184
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
伊藤 哲明 東京理科大学, 先進工学部物理工学科, 教授 (50402748)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 非平衡電子物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
試料に定常電流を印加した状態においてのNMR測定を可能とするNMRプローブ、ならびに装置系を新たに開発・構築し、これを稼働させることに成功した。この測定系を用い、金属-絶縁体転移を示す有機伝導体(DMe-DCNQI)2Cuに、2mAの定常電流を印加した状態での1H-NMR測定を行い、以下の結果を得ることに成功した。
5桁以上にわたり抵抗率が変化する非常に強い1次の金属-絶縁体転移を示す(DMe-DCNQI)2Cuに対し、電流印加下で冷却すると、80K近辺の金属-絶縁体転移温度より低温で、金属と絶縁体の中間的な抵抗値を示す非平衡定常状態が実現することを見出していた。この系に対し、室温から5Kまでの温度域で、2mA定常電流印加下の1H-NMR測定を行い、スピン‐格子緩和曲線を得た。これを解析することにより、この非平衡定常状態においては、金属相と絶縁体相が空間的に自己組織化した相分離が生じている状況であることを明らかとすることに成功した。このような流れ印加下の非平衡開放系における空間的組織化構造は、「散逸構造」という観点で議論できる可能性がある。空間的組織化構造を示す「散逸構造」の概念は、非平衡熱力学の枠組みの中で、ベナール対流や地球の大気構造など様々な例が議論されてきているが、電子系での実現可能性を論じている議論は今までほぼ存在しない。本研究成果は、「電子系における散逸構造」という新概念が実現している可能性を見出すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、電流印加下という非平衡状態における電子物性の開拓を行うものである。その中で、平衡から遠く離れた非線形領域における現象は取り扱いが難しく、電子物性における確立した議論は存在しなかった。一方で、非平衡熱力学の学問体系の中では、このような非線形領域においては、時空間的な一様解が不安定化し、時間的・空間的な構造化が現れることが知られており、これは「散逸構造」として議論されていた。 本研究実績により、電子系における散逸構造の発現の可能性が初めて見いだされた。これは当初の研究計画策定の時点では予期していなかった成果であり、「電子物性物理」と「非平衡熱力学」という独立分野をつなぐ新分野開拓となる可能性があるという意味で、「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
●(DMe-DCNQI)2Cuで観測された自己組織化電子状態について、散逸構造の観点からのより詳細な議論を進展する。 具体的には、電流印加下の1H-NMR測定を進め、 1)そのスピン‐格子緩和曲線から、金属/絶縁体の自己組織化相分離構造のそれぞれの体積分率を温度の関数として求める。 2)散逸構造においては、ベナール対流の例が示すように、温度効果が重要な役割を果たす。既存の物性物理においては電流による発熱は本質的でない効果として顧みられないことが多かったが、「電子の散逸構造」の観点からは発熱が重要な役割を果たしている可能性がある。1H-NMRのスペクトル強度から、試料の温度をダイレクトに求め、試料周辺環境温度との比較を行い、発熱の果たす物理的描像を明らかとする。
●空間反転の破れた系で実現する可能性のある電流誘起磁性を、物質群を広げ探索を行う。その可能性を探るべく、有機-無機ハイブリッドペロブスカイト物質群等にスコープを拡張し、第一原理バンド計算、並びにそれをベースにしたボルツマン方程式からの電流誘起磁性の数値計算を行う。
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