2023 Fiscal Year Annual Research Report
静電型イオンビームトラップによる精密分光の新展開:励起分子イオンの新奇蛍光の解明
Project/Area Number |
22H01194
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
斉藤 学 京都大学, 工学研究科, 教授 (60235075)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 再帰蛍光 / イオンビームトラップ / レーザー励起 / 分光計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、(i)静電型イオンビームトラップに蓄積したアントラセンカチオンからの再帰蛍光を測定すること、および(ii)トラップ内でレーザー励起したナフタレンカチオンからの再帰蛍光を測定し、その結果から再帰蛍光の時定数と内部エネルギーの関係を導出すること、を目指した。
(i)に関しては、アントラセンカチオンから放出される再帰蛍光の測定に成功した。測定した時間スペクトルから蛍光が10ミリ秒程度まで続くことを確認し、また、波長スペクトルから蛍光が775 nm付近にピークを持つことがわかった。1マイクロ秒以下の自然蛍光寿命よりもかなり遅い蛍光であること、およびピーク波長がアントラセンカチオンの第2励起準位から基底準位への蛍光波長に非常に近いことから、測定した蛍光がアントラセンカチオンの再帰蛍光であると結論できた。
(ii)に関しては、レーザーの迷光や反射光から生じるバックグラウンドを抑えきれず、前年度と同様に検出限界以上の再帰蛍光を観測することができなかった。そこで、レーザー励起したナフタレンカチオンからの熱解離中性粒子を測定し、その結果から内部エネルギー量を決定する実験を行った。その結果、トラップに蓄積しているナフタレンカチオンの内部エネルギーがトラップ蓄積4ミリ秒後で4.6 eVであると決定した。また、蓄積をさらに続けた後の20ミリ秒後にはナフタレンカチオンの内部エネルギーが4.3 eVまで冷却していることがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標であった、「複数種の分子イオンからの再帰蛍光放出を系統的に調べ、再帰蛍光が分子イオン共通に生じる脱励起過程なのかを実験的に検証する」に関しては、本年度はアントラセンカチオンから放出される再帰蛍光の測定に成功し、国際学会で発表することができている。また、もう一つの目標である「レーザー励起されたナフタレンカチオンの内部エネルギーと再帰蛍光時定数の決定」に関しては、内部エネルギーの決定まで研究を進めることができ、この結果も国内学会で発表している。おおむね計画通り研究が進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
(i)のテーマに関しては、今年度まで、代表的な多環芳香族炭化水素(PAH)イオン(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン)からの再帰蛍光を系統的に調べ、再帰蛍光が少なくともPAHイオン共通に生じる脱励起過程であることをほぼ検証してきた。今後、これらPAHイオンの置換体や異性体に研究対象を広げ、内部構造等の違いによる再帰蛍光の変化を調べていくことで、構築してきた再帰蛍光のメカニズムに関するモデルをより詳細に検討していく。
(ii)のテーマに関しては、レーザー励起によって同じ内部エネルギーに励起した場合に、通常の分子イオンとその置換分子イオンや異性体分子イオンで再帰蛍光放出に与える影響に違いがあるかどうかを探っていく。具体的には、ナフタレンカチオンとシアノナフタレンカチオンからのレーザー誘起による再帰蛍光放出を測定し、理論モデルから予想される再帰蛍光放出量の相違に関する研究を進めていく。
|