2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of fundamental techniques to realize a new idea of Mu-antiMu conversion search
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22H01237
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
河村 成肇 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別准教授 (60311338)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福山 武志 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (40167622)
上坂 優一 九州産業大学, 理工学部, 特任講師 (60826618)
的場 史朗 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 技師 (80535782)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ミュオン / ミュオン稀崩壊 / 新物理探索 / レプトン比保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の究極の目的は、ミュオニウム(Mu)-反ミュオニウム(antiMu)振動の観測による「標準模型を超えた新物理」の発見である。Muはレプトン・フレーバのみの量子数を持つ特異な束縛系で、レプトン・フレーバー非保存の新物理による過程が存在すればMu-Mu 振動を引き起こすことが理論的に予言されている。また、Mu-antiMu振動は原子の波動関数・原子核の構造に影響されず、新物理の特質をきれいに観測できるという点で独自の価値を持つ。 海外の先行研究では通常のミュオン崩壊に伴うバックグラウンドに由来する系統誤差が統計誤差を上回り、1990年代の実験以降、実験感度の向上が望めない状況が続いていた。本研究では、J-PARCなどで開発されているMuの乖離用大強度レーザーをantiMuの乖離に利用し、単離した負ミュオンを分光する手法の開発を目指している。 先行した原理実証研究では、Muの生成時に同時に生成されるMu-(負水素イオンH-に類する正ミュオン1つと電子2つの系)が実験上のバックグラウンドとなることが示された。antiMu乖離用レーザーの照射時間をずらすことで、Mu-の影響を除くことはできるが、実験上の制約となりえる。そこで、antiMuに由来する負ミュオンを確実に同定するため、負ミュオンが発する特性X線の検出を検出器アレイに組み込む必要がある。 本年度は、単離後の負ミュオンを輸送するビームラインの最下流部に設置するためのマイクロチャンネルプレート(MCP)の開発を行った。一般的なMCPの入射面にCsIを350nm程度の厚さでコートした。antiMu由来の負ミュオンは数10keV程度の引き出し電圧で輸送されるため、このCsI層に止まることが想定される。また、CsIのコートによりMCP自体は光に対するゲインが上昇するが、ミュオンなどの荷電粒子に対しては影響は小さいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではantiMuに由来する負ミュオンが発生する特性X線を高効率で捉えることで先行研究を超える実験感度の実現を目指している。 ミュオン特性X線は元素に固有のものであり、負ミュオンが停止する位置の元素を限定することで更なるバックグラウンドの低減が可能となる。また、大強度レーザーで単離された負ミュオンが分光器(ビームライン)を通過する時間も重要な情報であるため、負ミュオン自体を検出器に停止させ、分光器中の飛行時間(TOF)を測る必要がある。これらの条件を満たす検出器アレイとして、分光器の末端に設置し飛来する負ミュオンが直接入射する高時間分解能の検出器にはマイクロチャンネルプレート(MCP)を用い、その周囲を半導体X線検出器が囲む構造が考えられる。発生するミュオン特性X線を限定し、かつMCPの機能を失わないためMCPの入射面はCsIでコートする。レーザーで単離された負ミュオンは数10keVの引き出し電圧で引き出され、分光器を輸送される。そこでCsIコートの厚さは350nm程度とした。これにより数10keVの負ミュオンは確実にCsI層に停止させることは可能である。また、CsIコートによりMCP自体は光に対するゲインは上昇するが、ミュオンなどの荷電粒子に対しては影響は小さいと考えられる。 今年度はCsIコートのMCPを製作した。CsIコートは大気中ではクラスター化などにより劣化しやすいため、表面の顕微観察などは行わず、次年度以降に実施予定のビーム試験などで性能評価を行う。 また、理論研究ではMu-atniMu振動の磁場、電場に対する依存性が検討された。先行研究では固定のミュオン捕獲地場中で実験を行う必要があったが、本研究では磁場を掃引することが可能で、新物理モデルの絞り込みに有効であることの検証が進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
CsIコートのMCPの性能試験は2段階で行うことを検討している。まづ、数10keVの正ミュオン(超低速正ミュオンビーム)によりantiMuが単離した際に得られる負ミュオンと同程度のエネルギーの荷電粒子に対する応答を確認する。波形ディジタイザ―などにより波形を捉えて、より詳細な解析を行う環境も合わせて構築する。次に、負ミュオンを入射させて特性X線を捉える。ただし、数10keVの低エネルギー負ミュオンを発生させることができるミュオンビームラインは現存しない。そこで、現在得られる最低エネルギーである数100keV程度の負ミュオンを入射し、CsI以外の元素の特性X線の検出を行い、バックグラウンドの影響などを確認する。さらに、ディグレーダなどにより減速した負ミュオンビームの利用を試みる。 これらの性能試験は全てJ-PARC物質・生命科学実験施設での実施を検討しているが、必要に応じて他のミュオン実験施設の利用も検討する。 また、理論チーム、実験チームと共同で、レーザー照射のタイミングなど実験条件の最適化を検討する。 CsIコートMCPの性能試験、実験条件の最適化などの情報をもとにミュオン特性X線の検出器の設計を進める。X線検出器はMCPの周囲を囲む大立体角のものが必要である。発生するX線のレートは低いと考えられるが、適切なセグメント数、時間分解能、エネルギー分解能などの詳細はイタレーションを行いながら、シミュレーションにより決定する。
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