2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22H01241
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 拓実 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (40758398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高見澤 昭文 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (50462833)
赤松 大輔 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90549883)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | Yb光格子時計 / Cs原子泉時計 / 暗黒物質 / 周波数計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマはYb光格子時計とCs原子泉時計の長期比較および、海外の研究機関との連携による新規物理現象の探索である。特に、一般相対性理論の検証と暗黒物探索を行う。 今年度はYb光格子時計とCs原子泉時計のどちらも長期運転を行い、一般相対性理論の検証のためのデータを順調に蓄積した。このデータは標準研のミッションである国際原子時の周波数校正にも使われた。また、ヨーロッパの研究機関と1ヶ月程度高い稼働率で同時に運転したデータを送付して、暗黒物質探索のための解析を依頼した。 Yb光格子時計の堅牢性の向上のための研究も行った。特に、端面をARコーティングしたファイバーを導入することで、トラップできる原子数を約2倍に増加させることに成功し、10日間で96 %という高い稼働率での運転にも成功した。一方で、数ヶ月運転を続けているうちに、ファイバー透過率が減少し、新たな課題が浮き彫りになった。 今年度の大きな研究実績は、Yb光格子時計とCs原子泉時計の長期運転データを用いた超軽量の暗黒物質の探索を行い、論文とプレスリリースを発表したことである。これは当初の研究目標である一般相対性理論の検証実験で得たデータから、想定していなかった重要な成果を出せることに気づき、解析を行ったことにより得られた成果である。今回、質量が10-22 eV - 10-20 eVの超軽量暗黒物質と電子とグルーオンの相互作用において、先行研究よりも最大で3桁強い制限を与えることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Yb光格子時計とCs原子泉時計は順調に長期運転を行い、2022年8月、9月には、同時に国際原子時の校正に寄与した。光格子時計と原子泉時計が同時に高い稼働率で稼動し、さらに国際原子時に貢献するのは世界的に見ても稀有である。 今年度の大きな成果として、Yb光格子時計とCs原子泉時計の長期比較データを用いた暗黒物質探索を行い、論文とプレスリリースを発表した。暗黒物質の候補は、幅広い質量範囲で理論提案がされているが、10-22 eV程度の超軽量暗黒物質に着目した。これは宇宙の構造形成の観点から注目されている質量領域の候補である。原子時計を用いた超軽量暗黒物質探索には、先行研究があり、マイクロ波―マイクロ波、光―光の比較で、クオークや光子と暗黒物質との結合定数に制限がつけられていた。光―マイクロ波の比較では、電子とグルーオンと暗黒物質との結合を調べることができるが、これまでは光共振器と水素メーザーによる先行研究のみであり、質量は10-21 eV程度までであった。不確かさ評価がされた光格子時計やCs原子泉時計の比較による探索は、質量10-22 eVの探索に有効であるが、光格子時計の長期運転が必要であり、これまで報告はなかった。本研究では、光格子時計とCs原子泉時計が同時に60%以上稼働した2ヶ月程度のデータを用いて解析を行った。その結果、質量が10-22 eV - 10-20 eVの超軽量暗黒物質と電子とグルーオンの相互作用において、先行研究よりも最大で3桁強い制限を与えることに成功した。この成果は、光格子時計の長期運転が基礎物理学の発展に寄与することを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
Yb光格子時計の堅牢性向上のための研究開発を進める予定である。主に399 nmの冷却レーザーの改良が急務である。このレーザーは、798 nmの半導体レーザーの出力をアンプした後に、PPLN導波路を用いて399 nmを生成したのち、注入同期法により200 mW程度の出力を得るシステムになっている。今年度に次の問題点を発見した。(1) まず、数年間連続で使用していたPPLN導波路の変換効率が減少していることに気づいた。そこで、バックアップの購入と、PPLN導波路の端面の洗浄を行った。洗浄の結果、変換効率が少し改善し、399 nmの集塵効果が原因である可能性が高いことが判明した。(2) また、注入同期の出力の長期的な減少が見られた。これがレーザーの温度を氷点下にさげることにより、氷が生成していることが原因であることに気づいた。(3) 2022年11月に、端面をARコーティングしたファイバーを導入して、399 nm光を原子捕獲チェンバーに送るように改善した。導入した直後は、トラップされる原子数が約2倍に増加し、10日間で96 %という高い時計の稼働率を達成した。しかし、さらに数ヶ月稼動していると、ARコーティングをしていないファイバーと同様に長期的な透過率の減少が見られた。上記(1)-(3)の問題点の改善を今後行う予定である。 引き続き、Yb光格子時計とCs原子泉時計の長期比較データを取得し、一般相対性理論の検証に必要なデータを蓄積する。また、海外の機関とコミュケーションをとりながら、なるべく他機関の時計と同時に稼働する期間を増やし、暗黒物質探索に寄与する予定である。
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