2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22H01241
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 拓実 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (40758398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高見澤 昭文 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (50462833)
赤松 大輔 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90549883)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Yb光格子時計 / 暗黒物質 / 周波数計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマはYb光格子時計とCs原子泉時計の長期比較および、海外の研究機関との連携による新規物理現象の探索である。特に、一般相対性理論の検証と暗黒物探索を行う。今年度は研究代表者が米国で光格子時計の研究を1年間行うため、中断申請を行なった。そのため、実質的に研究期間3ヶ月の報告となる。短い期間であるが、約1ヶ月間、光格子時計とCs原子泉時計の連続運転を行い、一般相対性理論の検証のためのデータを蓄積し、また、さまざまな装置改良を行なった。暗黒物質探索のデータ解析は海外のグループと引き続き行なっている。
Yb光格子時計とCs原子泉時計の間のリンク系の改善も行なった。まず、中間発振器の水素メーザーとして周波数安定度の高いものを採用した。また、これまでUTC(NMIJ) (水素メーザーと周波数調整器を組み合わせて生成)が中間に入っていたが、水素メーザーのみを中間に入れることで、ノイズの低減を行なった。また、リンク系に起因するノイズを詳細に評価した。
光格子時計のレーザー周波数安定化および光とマイクロ波の周波数比較を行なっていた光周波数コムが故障したため、修理を行なった。光周波数コムのオシレーターの部品を交換し、より堅牢に動作するように改善した。光周波数コムの修理後は慎重に動作確認を行い、光周波数コムがYb光格子時計とCs原子泉時計の比較精度を制限する要因にはならないことを確認した。実際に修理後の光周波数コムを用いてCs原子泉時計との比較と国際原子時の校正を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Yb光格子時計とCs原子泉時計は順調に長期運転を行い、2023年4月、5月には、国際原子時の校正に寄与した。今回は合計約1ヶ月の比較であったが、光格子時計と原子泉時計が同時に高い稼働率(月間稼働率80 %以上)で稼動できる研究機関は世界的に見ても稀有であり、これを継続することで新規物理の探索領域を広げることができる。
今年度は、主にYb光格子時計とCs原子泉時計のリンク系のノイズ低減を目的とした改善を行なった。両者の時計の間には、水素メーザー、光周波数コムがある。水素メーザーは、これまで1秒の安定度が10^-12台で、10^-15台のフリッカーフロアがあるものを用いていたが、今回から1秒の安定度が10^-13台、フリッカーフロアが10^-16台のものを採用した。また、これまではUTC(NMIJ) (水素メーザー+周波数調整器)、複数の分配アンプ、長い同軸ケーブルが間にあったが、水素メーザーを経由してなるべく最短でつなぐようにした。リンク系の評価はタイムインターバルアナライザを用いて慎重に行った。
リンク系のもう一つのコンポーネントである光周波数コムのモード同期が突然かからなくなる問題が発生し、修理を行なった。原因はオシレーターの部品の劣化(10年近く連続して使用していた)であることが判明し、より堅牢な部品と交換した。修理後は長時間の位相同期のデータをモニターし、地震等でロックが落ちない限り、位相飛びが起こらないことを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度からの課題であるYb光格子時計の堅牢性向上のための研究開発が、研究中断のため今年度は進んでおらず、来年度に行う予定である。主に399 nmの冷却レーザーの改良が急務である。特に光ファイバーの透過率の長期的な減少について、改善を行いたい。また、光格子にトラップされる原子数を増やせるように399 nm系の改善を検討する。別の問題として、556 nmの冷却レーザーの半導体光アンプの出力が長期で減少する問題もあり、長寿命化する方法を検討する。今年度の運転で、これまで非常に堅牢であったチタンサファイヤレーザーのロックがたまに落ちる現象が起こった。光周波数コムのブランチに原因があるところまで突き止めているが、原因がわかっていない。また、稀にでもロックが落ちるのであれば、自動またはリモートでロックが復帰できるようにするのが望ましく、来年度にこれを可能にする機構を導入する予定である。
引き続き、Yb光格子時計とCs原子泉時計の長期比較データを取得し、一般相対性理論の検証に必要なデータを蓄積する。また、海外の機関とコミュケーションをとりながら、なるべく他機関の時計と同時に稼働する期間を増やし、暗黒物質探索に寄与する予定である。
今年度は米国渡航のために研究を中断したが、この渡航は本研究をさらに発展させる可能性があるものと期待している。帰国後も引き続き米国の研究機関と連携して、光格子時計の高度化を加速させる予定である。
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