2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of observing network for heat balance of sea ice based on ice-ocean boundary layer theory
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22H01296
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野村 大樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (70550739)
猪上 淳 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00421884)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 北極海 / 海氷 / 海氷海洋境界層 / 熱フラックス / レイノルズ応力 / 自動観測 / 地球温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究課題のメインミッションである2023年夏のドイツ(Alfred Wegener海洋研究所)の砕氷船Polarstern号を用いた北極海の氷上観測(ArcWatch I)に向けた準備を着々と進めることができた。特に、本科研費課題で提案している、海氷の熱収支に関する自動観測システム(CrioTeCブイ)の開発を中心に研究を進めた。具体的には、当該機器の開発を共同で進めている国内企業(有限会社リーフ)と連携しながら、CrioTec機器の基盤の設計や通深やデータ取得に関する細かな仕様の設定方法、および、研究目的に沿ったセンサー種類の選定などに多くの時間を費やした。 CrioTeCのハード面の開発と並行して、前年度に取得したドイツ砕氷船で取得した境界層内の海洋物理データの解析を進め、国際誌より論文として発表した(Kawaguchi et al. 2022JGR-Oceans)。この論文では、海氷海洋境界層内の乱流混合に焦点を当て、海氷の漂流速度や気象条件、そして、海洋混合層に蓄積した融解水の影響について議論をおこなっている。ここで得た知見を用いて、海氷下境界層における乱流フラックスの定式化に関するアイデアを新たに得ることができ、翌年に控えた同砕氷船による氷下での渦相関手法を用いた乱流フラックスの直接観測の戦略構築に向けて良い準備を整えることができたと評価している。 ArcWatch Iで利用する渦相関フラックス計の準備として、国内の海氷フィールド(北海道サロマ湖)に赴き、本番で利用する観測手法の修練や衛生通信を含めた機器の作動テストを実施することができた。全ての機器・装置は問題なく作動し、準備万端の状態にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、本年度は、本研究課題のメインミッションである2023年夏の砕氷船を用いた北極海の氷上観測(ArcWatch I)に向けた準備を進めた。ウクライナ戦争の影響で、当初予定していたロシア系の企業との共同機器開発に関しては、一時、研究が頓挫してしまった。しかしながら、日本国内に新たに当該自動観測機器の開発に協力してくれる企業と出会うことができ、当初の予定通り、自動監視システム(CrioTeC)の開発を進めることができた。
本科研費課題の中で提案する、海氷周りの熱収支に関するCrioTeCブイの開発を中心に研究を進めることができた。共同で開発を進めている国内企業と連携しながら、機器の設計や仕様、センサーの選定などを行った。CrioTeCのハード面の開発と並行して、前年度に取得したドイツ砕氷船で取得した境界層内の海洋物理データの解析を進め、国際誌より論文として発表することができた(Kawaguchi et al. 2022JGR-Oceans)。当該論文は、海氷-海洋境界層の乱流混合に焦点に解析を進め、海氷と海洋上層における物理環境(海氷の漂流速度、海洋混合層の水温・塩分、乱流エネルギー散逸率など)の影響について詳しい議論を展開している。本データ解析で得た知見を用いて、海氷下境界層における乱流フラックスの定式化に関するアイデアを導くことが可能となり、Polarsternを用いた来年度の航海の中で、海氷直下の乱流フラックスの直接観測の戦略構築に向けて準備を順調に進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、本研究課題のメインミッションである砕氷船を用いた北極海の氷上観測(ArcWatch I)を来年度の7-9月に控えている。本年度は、当該観測に向けた準備を順調に進めることができた。ArcWatch Iの観測では、本研究グループでは以前に失敗の経験のある渦相関手法を用いた海氷下の直接観測の再チャレンジの機会でもある。熱や運動量、溶存酸素に関する境界層内の乱流フラックスのサンプルを北極海の幅広い領域、および、さまざまな海氷種の環境下で取得することができれば、海氷の熱収支に関する新しい知見を得れると同時に、海氷ー海洋結合モデルなど大型の気候シミュレーションでの境界層モデルの刷新に一躍貢献できる可能性が考えられる。特に注目する点として、1)海氷下の凹凸が境界層内に引き起こす形状抵抗による乱流の発生条件、および、2)海氷が生成・融解する際の海水密度の安定度の問題、が挙げられる。これらの点は現行の気候モデルでは便宜上簡便に扱われている要素でもあり、北極海の海氷面積の予測精度を向上させる上で最も注目すべきポイントであると考えている。また、渦相関法による直接観測の知見とCrioTeCによる自動観測の知見とを融合させることで、より広いエリアでの海氷の熱収支観測が実現することにも大きな期待を寄せている次第である。
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