2022 Fiscal Year Annual Research Report
バイオミネラル中の微量元素と有機分子の可視化によるvital effect精緻化
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22H01340
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥村 大河 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90867508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 道生 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (10647655)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | バイオミネラル / 微量元素 / 有機分子 / vital effect / 炭酸カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
炭酸カルシウムで構成されたバイオミネラルでは微量元素の含有量が形成時の環境を反映するため、古環境復元における環境指標として利用される。しかし、微量元素含有量と環境因子との相関は経験的な実測データに基づいているため、先行研究によってばらつきがある。ばらつきが生じる主要因とされる生物学的影響はvital effectと呼ばれるが、その詳細については明らかにされていない。そこで本研究ではバイオミネラル中の微量元素や有機分子の結晶構造との関連を調べ、vital effectの精緻化を目指した。 本年度はまずin vitroでの炭酸カルシウム結晶合成実験を行い、微量元素と結晶構造の関係を調べた。特に海水生のバイオミネラルで多く含有されるNaに注目し、Na含有量を制御した結晶を合成した。合成した結晶の格子定数をX線回折装置で調べると、アラゴナイトではNa含有量が増えるほどa軸とc軸は伸長するのに対し、b軸はほとんど変化しなかった。また、この異方性は加熱によって緩和された。バイオミネラルでも同様な挙動が見られたため、実環境においてもNa含有による異方的な変化が生じていることが示唆された。バイオミネラルにおけるNaの存在状態をより詳細に調べるため、クロアワビの真珠層を構成するアラゴナイトについて3次元アトムプローブによる測定を行った。その結果、NaとCOHの分布に相関が見られたため、一部のNaは結晶内に存在する有機分子と結合している可能性がある。今後は他の微量元素についても同様に調べる予定である。 次に、バイオミネラルに含まれる有機分子の局所的な違いを走査型透過X線顕微鏡で調べた。カルサイトとアラゴナイトの両者を形成する軟体動物貝殻において、結晶多形の転換部位において構成する有機分子が変化する傾向が確認された。今後はさらに有機分子の種類を明確にし、特徴的な結晶構造を誘起する有機分子を特定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
in vitroでNaを含有したアラゴナイトを合成したが、Naは比較的原子番号の小さい元素であるため、その存在サイトを走査透過電子顕微鏡で観察することは困難であった。そこで米国アラバマ大学の研究者に3次元アトムプローブによる測定を依頼し、当該装置による微量元素可視化の見通しを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
Na以外の微量元素を含有させた炭酸カルシウム結晶もin vitroで合成し、その結晶構造との関係性を調べる。特に3次元アトムプローブによる測定の見通しを得たため、含有された微量元素の分布を可視化し、電子顕微鏡と組み合わせて局所構造との関連を詳細に探る。 また、走査型透過X線顕微鏡を用いてバイオミネラルに含まれる有機分子の種類と局在を調べ、どのような有機分子が特徴的な構造と関連しているかを明らかにする。
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Research Products
(19 results)