2022 Fiscal Year Annual Research Report
分子吸着による塑性変形挙動の変化を利用した“潤滑”に依存しない切削加工技術の探求
Project/Area Number |
22H01376
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
杉原 達哉 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90637539)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 切削加工 / トライボロジー / 表面応力 / 脂肪酸 / その場観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
高精度かつ高能率な付加価値の高い切削加工技術を確立する上で,切削油剤などの供給による加工点近傍への潤滑性向上は欠かせない要素である一方で,著しく過酷な摩擦環境に晒される工具-切りくず界面への潤滑性の付与・維持は極めて困難である.そこで本研究は,従来型の“潤滑”に依存した切削加工技術の限界を打破するため,金属表面への分子の吸着によって引き起こされる塑性変形挙動の変化に着目し,「切削加工における塑性変形挙動のin-situ観察」,「自己集積化単分子膜による吸着分子制御」といったコア技術を軸に研究を展開することで,その作用機序や発現条件を解明していく.そして,同現象を積極的に活用した切削加工技術を構築することで,「“潤滑”に依存しない切削加工特性の飛躍的向上」という新たな価値創出によるブレイクスルーを図るというものである. 本年度はまず,DIC解析を援用した切削加工のin-situ観察手法の構築を行い,切削加工プロセスにおける被削材内部のすべり線場,ひずみ,ひずみ速度分布の計算手法を確立した.そして構築した手法を用い,炭素数の異なる脂肪酸を有する切削油剤を用いた実験を行ったところ,(i) 切削加工特性は脂肪酸の炭素水素鎖長さに大きく依存し,炭素数の大きい脂肪酸で著しい切削抵抗の低減効果が得られること,(ii) 脂肪酸による切削抵抗の低減効果は,工具-切りくず界面における潤滑効果ではなく,被削材自由面側に吸着した脂肪酸によってもたらされていること,(iii) 被削材自由面側に吸着した脂肪酸が,吸着面に表面応力場を付与することで,切削低減の低減が起きている可能性があること,などを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,「被削材自由面側への分子吸着による塑性変形挙動の変化」という現象そのものに対する理解を深めるという基礎的な研究ステージから,理解した現象を実際の切削加工技術に落とし込むという応用的な研究ステージまでを扱う. そういった中で,R4度は本研究のコア技術のひとつである切削加工現象の可視化手法を確立し,「被削材自由面側への分子吸着による塑性変形挙動の変化」を捉えることを達成した.さらに,吸着分子による表面応力場の変化に着目した検討を進めるとともに,表面応力がを定量化するための手法の構築にも既に着手しており,研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
R4度の成果を踏まえ,R5年度は主に下記の研究に取り組む. (i) 表面応力場の測定手法の確立:本研究が扱う現象においては,分子吸着による表面応力場の変化が極めて重要な役割を果たしていると考えている.そこで,マイクロカンチレバーを用いた分子吸着による表面応力の定量化手法を新たに構築するとともに,構築した手法によって脂肪酸の炭化水素鎖長さと表面応力場の関係を明確化する. (ii) 表面応力場と切削加工特性の関係の明確化:炭素数の異なる脂肪酸を用いた切削加工実験を行うとともに,上記の表面応力場との関係について検討を行うことによって,表面応力場と切削加工特性の関係の明確化を図るとともに,「“潤滑”に依存しない切削加工特性の飛躍的向上」を達成する上で重要な因子の抽出を目指す. (iii) 圧縮応力場がもたらす塑性変形挙動の変化の解明:これまでの研究成果において,金属表面に引張応力場が付与されることによって,材料が延性的→脆性的なふるまいをすることを明らかにした.R5年度はさらに,圧縮応力場の付与により,脆性的→延性的なふるまいの実現を模索する.
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