2022 Fiscal Year Annual Research Report
豪雨時のSAの失敗を考慮した避難行動の意思決定過程のモデル構築
Project/Area Number |
22H01616
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
柿本 竜治 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 教授 (00253716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 裕希子 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40447941)
吉田 護 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60539550)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 避難行動 / 自然主義的意思決定 / 二重過程理論 / 状況認識の失敗 / 防護動機理論 / 豪雨災害 / アンケート調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然災害のように,個々人がごくまれにしか直面しない事象の場合,経験不足,情報や周辺環境へのSAの不完全さで,ヒューリスティックな意思決定が優先的に働くことが考えられる.たとえば,避難遅れや受動的避難は,不適切なヒューリスティックな意思決定,すなわち状況認識の失敗により生じている現象と見なせる.そこで,状況分析段階での意思決定による行動を能動的避難,状況分析段階で状況認識に失敗し,反応選択段階での意思決定による行動を非避難や受動的避難として捉え,豪雨時の避難行動のアンケート票を設計し,調査を行った. 具体的には,熊本県南部地域で発生した「令和2年7月豪雨」を対象とした.「令和2年7月豪雨」では,熊本県南を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害,土砂災害が発生し,死者・行方不明者86人の甚大な災害となった.被害の大きかった熊本県の人吉市,球磨村,八代市坂本町の浸水被害を受けた住民を対象に,時間の経過とともに河川の状況や災害発生への意識,およびそれに伴って変化する避難意識について調査を行った.そして,それらの調査結果を用いて,豪雨の進行とともに変化する状況認識に基づく避難行動意思決定モデルを構築した.アンケート結果の分析や避難意識モデルから,水平避難を促す要因は,ハザードマップの確認や避難場所の確認といった災害への備えや避難勧告や避難指示といった避難情報より,避難の呼びかけや河川氾濫など状況認識を促進させる刺激の方が有意であることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の研究計画は,自然主義的意思決定と防護動機理論を組みわせた豪雨時の避難行動の調査分析フレームに対応した豪雨災害時の調査体系を構築し,それに則したアンケート調査票の設計を行うことであった.また,現実の豪雨災害時の避難行動に対しそのフレームが適応可能であるか検証することであった. そこで,実際にそのフレームに基づいたアンケート票を設計し,「令和2年7月豪雨」で浸水被害を受けた住民を対象に,避難行動等の調査を行った.そして,それらの調査結果を用いて,豪雨の進行とともに変化する状況認識に基づく避難行動意思決定過程を分析した.その結果,次のことが明らかになった.避難のトリガーは,気象情報や避難情報でなく,河川の氾濫や避難の呼びかけなど状況認識を直接訴えるものであった.また,災害が起こる前に自らの判断で能動的に避難している人は少なく,避難している人の多くは,災害の発生や避難の呼びかけなどに促されて避難した受動的避難者であった.能動的避難者は,避難所を確認している人や気象情報の理解度が高い人の割合が高く,また,避難行動は面倒だと思っていない人の割合が高かった.受動的避難者は,能動的避難者と比べて避難所を確認している人や気象情報の理解度が高くなかった人の割合が高かったが,避難することの負担感,避難することの自己効力感,非防護反応,および,対処費用に関する項目については,能動的避難者とあまり差はなかった. このように提案する調査分析フレームを,現実の避難行動の調査分析に適用することにより,従来の調査分析では得られていない避難行動の特性を明らかにすることが出来た.このことは,提案する調査分析フレームの有用性を示すものである.このように,当初の計画通りに研究代表者も分担者も課題に取り組んでおり,また,順調に成果も得られている.以上より,「おおむね順調に進展している.」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,2022年度に構築した豪雨時の避難意思決定モデルを動的な避難意思決定モデルへの展開を試みる.本研究課題では,豪雨時のSAや避難意識の時間的推移を重要視するため,河川氾濫や土砂災害等の発生認識,周囲の避難状況,避難の呼びかけ等を時系列で調査するとともに,それらの変化に伴って変化する脅威評価や避難意図の時間的推移を調査した.それらのデータを用いて状況分析段階と反応選択段階を持つ豪雨時の状況認識を踏まえた避難行動の意思決定過程をモデル化する. 状況分析段階では,知識や経験などの個人特性と豪雨時に発信される気象情報,避難情報,および周辺環境に基づき状況を分析し,避難が必要かどうかを合理的に判断する.そこには,防護動機理論の枠組みを適用する.一方,反応選択段階では,状況分析段階で用いるPMTモデルの構成要素である個人属性や脅威評価,対処評価等も加味されるが,豪雨の進行とともに変化する周辺環境に対する状況認識の重要性が増すので,状況に応じてヒューリスティックに意思決定する自然主義的意思決定モデルの枠組みを適用する.豪雨時のSAの失敗に着目してモデル化をすることによって,種々の備えや対策が避難行動にどのように反映されるのかシミュレーション可能となり,有効な避難行動誘導施策の検討を可能にする. また,SAの失敗を考慮した避難行動分析フレームを津波の避難意思形成と台風時の避難行動のアンケート調査に適用を試し,提案する調査分析フレームの汎用性も検証する.
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