2023 Fiscal Year Annual Research Report
強磁性体のスピン揺らぎによる熱電特性増大の機構解明に関する研究
Project/Area Number |
22H01761
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
辻井 直人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 主幹研究員 (90354365)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 一良 京都大学, 理学研究科, 名誉教授 (70191640)
道岡 千城 京都大学, 理学研究科, 助教 (70378595)
津田 俊輔 国立研究開発法人物質・材料研究機構, マテリアル基盤研究センター, 主任研究員 (80422442)
長谷 正司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 主席研究員 (40281654)
櫻井 裕也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, 主幹研究員 (60421400)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スピン揺らぎ / 遍歴電子系 / ゼーベック係数 / 擬ギャップ / 熱電特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
高い性能の熱電材料の開発が強く求められている。我々は磁性とキャリアの相互作用によって熱電特性が向上しているいくつかの物質群を見出した。特にホイスラー合金Fe2VAlを基にした材料において、元素置換によって低キャリア密度でありながら弱い遍歴電子強磁性を示す物質が得られることがわかり、顕著な強磁性スピン揺らぎによってゼーベック係数が増大されていることが明らかとなってきた。この起源を明らかにするために、様々な条件による良質試料合成、温度・磁場を詳細に変化させた物性測定、さらにNMR、電子分光測定などの微視的な測定を進めている。Fe2VAlではVサイトにCrを置換した試料を系統的に作成し、強磁性転移温度Tcのキャリア密度依存性を見出した。弱い強磁性を示すCr置換試料についてNMRの予備的測定を開始した。また、磁気的特性をスピン揺らぎのSCR理論に基づいて解析し、スピン揺らぎのパラメータを算出した。ここでは高橋の関係式を仮定した。その結果、Fe2VAl系におけるスピン揺らぎパラメータは、多くの遍歴電子系と同様のプロットに一致することが示された。 電子状態計測では、ホイスラー試料のX線電子分光測定をスタートしており、条件の精査中であるが、並行して、顕微分光と飛行時間検出器を組み合わせたセットアップを立ち上げ、高速度でスピン分解測定を可能とした。また、混合原子価のCrイオンを持つLaxSr1-xCrO3において大きなゼーベック係数を観測し、Crイオンと酸素イオンにおけるスピン自由度が関与していることが示唆された。さらにCoとPを含む低次元構造化合物においても弱い遍歴電子強磁性を観測し、解析の結果、顕著なスピン揺らぎが発現していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Fe2VAlホイスラー系の磁気的状態について、スピン揺らぎパラメーターの解析を行い、仮定式を用いた条件では多くの遍歴電子磁性体を同様のスピンダイナミクスを持っていることが示された。今後、NMRの緩和率のデータを追加することで、仮定なしに定量的解析を行い、正確な議論を進めることが可能となる。この点ではほぼ順調に進展している。一方、Crドープホイスラー系ではディスオーダーの影響が強く、NMR観測に至っていない。しかし熱処理条件を工夫するとともに、Feドープ系を並行して進めることで、NMRデータ取得が見込めている。分光測定においては装置立ち上げが進んでおり、Fe2VAl試料の測定も進めているが、破断が困難であり、信号が得られていない。これについては試料の形状を工夫して改善が見込まれている。問題点が明らかになってきているので、次年度に良好な条件で実験を進められるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Cr置換系だけでなくFe添加系試料を系統的に作成し、磁気的測定、熱電特性の評価を行う。さらにNMRにおいて緩和時間から見積もったスピン揺らぎパラメーターを用いて、仮定なしに磁気特性の定量的解析を行う。これにより、ホイスラー系におけるスピンダイナミクスが遍歴電子磁性体の中でどのようにマッピングされるかを明らかにし、熱電特性との関連を議論する。光電子分光測定では、試料形状とサイズを改善することによって電子状態の計測を行い、強磁性スピン揺らぎと顕著なゼーベック係数への影響を微視的に議論する。
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