2022 Fiscal Year Annual Research Report
Pb系トポロジカル絶縁体のバルク絶縁体化と転位伝導
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22H01765
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳本 有紀 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (20546866)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 電気伝導 / バルク絶縁体化 |
Outline of Annual Research Achievements |
トポロジカル絶縁体(TI)の転位伝導や表面伝導の研究に不可欠なバルク絶縁性向上において以下の成果が得られた。 表面だけでなく結晶内部の一次元欠陥(転位)においても特殊な伝導状態が発現し得るトポロジカル指数をもつPb-(Bi,Sb)-Te系TIを対象とした。Pb-(Bi,Sb)-Te系については、これまでにBi/Sb比の調整によりバルク絶縁性を向上させ、温度2Kで最大180mΩcm程度の電気抵抗率の試料が得られていた。本年度は、PbTeなどの合金系でバルク絶縁性の向上が報告されているInをドーパントとして選択し、InドーピングによるPb-(Bi,Sb)-Teのさらなるバルク絶縁性の向上を目指した。 モル比がPb:In:Bi:Sb:Te=(1-x):x:(0.21×2):(0.79×2):4となるように各元素を秤量し、ブリッジマン法で結晶育成を行った。Sb分率はノンドープ試料で最大の電気抵抗率が得られた0.79に固定し、Inドープ量はx=0.01,0.02,0.04の3通りとした。得られた結晶について粉末XRD測定を行った結果、Inドープ量の増加にしたがって格子定数が減少しており、ドープしたInが析出することなく結晶中に取り込まれていることがわかった。ブリッジマン法で作製した試料は同一仕込み組成、同一ロッド内でも組成の変調、変動があるため、電気抵抗の温度依存性は場所によってばらつきがあるが、その中でも、x=0.02のInドープ試料で2Kにおける電気抵抗率が最大で1Ωcmに達した。これはノンドープPb-(Bi,Sb)-Teと比較し、5倍以上の値である。本成果は、従来表面伝導の研究がされてきたBi-Sb-Te-Se系以外のTIの表面・転位伝導の研究の発展に寄与するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は当初、Pb-(Bi,Sb)-Te系トポロジカル絶縁体(TI)について、1)バルク絶縁体化、2)転位の導入、3)転位伝導の実証、を順に行う計画であった。本年度は主に1)の実験を進めた。 Pb-(Bi,Sb)-Te系TIへのInドーピングによるバルク絶縁性向上を試みた。モル比がPb:In:Bi:Sb:Te=(1-x):x:(0.21×2):(0.79×2):4となるように各元素を秤量し、ブリッジマン法で結晶育成を行った。Sb分率はノンドープ試料で最大の電気抵抗率が得られた0.79に固定し、Inドープ量はx=0.01,0.02,0.04の3通りとした。得られた結晶について粉末XRD測定を行った結果、Inドープ量の増加にしたがって格子定数が減少しており、ドープしたInが析出することなく結晶中に取り込まれていることがわかった。ブリッジマン法で作製した試料は組成に揺らぎがあり、同一ロッド内でも組成が微妙に異なるため、同一仕込み組成でも電気抵抗の温度依存性が金属的な振舞いを示す試料と、半導体的な振舞いを示す試料が存在する。その中でも、x=0.02のInドープ試料で、2Kにおける電気抵抗率がノンドープ試料と比較して5倍以上の高いバルク絶縁性を持つ結晶を得ることに成功した。2Kにおける電気抵抗率の絶対値は最大で1Ωcmに達し、これは従来表面伝導の研究がされてきたBi-Sb-Te-Se系TIに匹敵する値である。これにより、本研究の第一の目的が達成された。 電気抵抗・磁気抵抗の温度依存性の解析結果から、Inドープにより空間的に離散した不純物バンドがバンドギャップ中に形成され、これによりバルク絶縁性が大幅に向上したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、当初計画の2)転位の導入、3)転位伝導の実証に取り組む。 1)バルク絶縁体化で作製した試料からミリメートルサイズの直方体を切り出し、高温塑性変形により転位を導入する。このとき理論的に転位伝導が生ずるタイプの転位を制御して導入する必要がある。続いて、転位伝導の測定を行う。 2)転位の導入 材料試験機(当研究室現有)で降温圧縮変形し、転位を導入する。本系は、[111]方向に原子層が積層した三方晶構造をもつ。理論的に金属伝導が発現すると予想される転位はバーガースベクトルb=[100]の転位であり、この系の主すべり面である(111)面のすべりでは生成しない。 そこで、主すべり系の働きを抑える方位、つまり(111)面すべりのシュミット因子が0に近くなる圧縮方位を幾つか選んで種々の温度、変形速度で変形を行う。導入された転位の型と転位組織を透過電子顕微鏡を用いて明らかにする。特に十分な長さの転位が十分な密度で導入されているかを確認する。 3)転位伝導の実証 転位導入後の結晶からまずワイヤーソー(当研究室現有)を用いて数ミリメートルサイズの試料を切り出し、さらに集束イオン/電子ビーム加工装置(FIB-SEM)(所属研究所共用装置)を用いてマイクロサンプルを長手方向が転位線方向となる方位で切り出す。FIB内の蒸着機能を用いてPt電極を付け、直流4端子法により電気伝導測定を行う。マイクロサンプルを用いる理由は、試料を貫通した転位の本数を十分に確保するためである。以前行ったBi-Sb系TIを用いた実験において、転位伝導の明確な証拠を得るために、このことが重要であることがわかっている。得られた結果から転位が理論的に予測されるような金属状態となっているかどうかを定量的に検証する。
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