2023 Fiscal Year Annual Research Report
高分子ナノ粒子内部へのキラルな金属ナノ構造体の直接造形法の創生
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22H01892
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
河合 武司 東京理科大学, 工学部工業化学科, 教授 (10224718)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キラル金属ナノ構造 / 高分子粒子 / 紫外線照射 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、紫外線照射による金属担持技術の粒子以外への拡張を目指し、キラル金属ナノ構造体を様々な材料表面に貼り付けできる高分子薄膜の作製技術を確立した。キラル金属ナノ構造体の作製に先立ち、キラル孔の作製について検討した。具体的には、シリカ粒子やPMAA粒子を配列させたPS薄膜(厚み 300 nm)を水面上に浮かべ、方位角を変えながら紫外線を斜めから照射し、キラル孔の作製を試みた。紫外線の照射強度や方位角の変化速度を調整することによって、様々な形状(馬蹄状や勾玉状など)の孔が形成できることがわかった。孔の中に金および銀ナノ粒子を配列させると、キラル光学特性を発現することも確認できた。さらにCDピークの現れる波長領域は、孔の形状にはほとんど依存せず、金および銀ナノ粒子のプラズモン吸収波長に依存することを明らかとした。 次に、PS薄膜の紫外線照射を水の代わりに銀イオンを含む系で行い、銀ナノ粒子集合体をPS薄膜内に形成させることを試みた。PSの膜厚、シリカ粒子の粒径、紫外線の照射強度・角度、銀イオンの濃度などの影響を総合的に検討した結果、生成した銀ナノ粒子の状態はPS薄膜の厚みに依存することを明らかとした。さらに、勾玉状の銀ナノ粒子集合体はプラズモン吸収位置にCDピークを示した。 一方、アキラルな銀ナノ粒子集合体パターンを担持させた2枚のPS薄膜を重ね合わせることによるキラル光学特性の発現について検討した。2枚のPS薄膜に同一の直線状銀ナノ粒子パターンを作製し、両者を様々な角度で重ね合わせてCDスペクトルを測定したところ、銀ナノ粒子のプラズモンによるピークが観測された。さらに、それらのCDピーク強度および正負の符号は重ね合わせの角度によって自在に制御できることも明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標の一つは、PS薄膜へのキラル形状の孔の作製とキラル孔への金属ナノ粒子担持によるキラル光学特性の発現であった。紫外線の照射条件を調整することでPS薄膜にキラル形状を含む様々な形状の孔ができることを実証し、さらに孔の中に金あるは銀ナノ粒子を担持させることでキラルプラズモニック光学特性が発現することを実証したことから、一つ目の目標はほぼ100%達成できた。 二つ目の目標は、PS薄膜への銀ナノ粒子集合体のダイレクトな担持法の確立であった。PS薄膜を浮かべている水を銀イオン水溶液に変えるだけで、PS薄膜内に銀ナノ粒子集合体が担持できることを証明した。さらに紫外線の照射条件を調整することによって銀ナノ粒子集合体の形状を制御できること、PS薄膜の厚みによって粒子の生成位置が制御できることを示したことから、二つ目の目標もほぼ100%達成できた。 三つ目の目標は、アキラルな銀ナノ粒子集合体の配置によってキラル光学特性が発現できるかであった。直線的な銀ナノ粒子集合体を配列させた2枚のPS薄膜を重ねることによって、キラル光学特性が発現することを実証した。さらに、キラル光学応答をPS薄膜の重ね方で制御できることも明らかとした。しかし、キラル光学特性が現れる波長領域の制御までには至っていないので、達成率は80%程度である。 したがって、本年度の総合な達成度は90%程度であり、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
銀イオンを含む水溶液上のポリスチレン(PS)粒子に入射角45°で紫外線の方位角を変えながら照射してPS粒子内の銀ナノ粒子を生成させ、その粒子集合体の形状およびキラル光学特性をそれぞれ3次元TEMトモグラフ解析およびCD分光法から明らかとする。入射角固定と可変とでは、銀ナノ粒子集合体の形状が異なると考えられるので、入射角も方位角と同時に変えて紫外線を照射して銀ナノ粒子を生成させ、銀ナノ粒子集合体の形状やキラル光学特性に及ぼす入射角変化の影響を検討する。また、PS粒子膜の回転方向が時計回りと反時計回りで銀ナノ粒子集合体の形状が鏡像関係になり、CDスペクトルが反転するかを確認する。さらに、次の条件を変えた銀ナノ粒子集合体のCDスペクトル解析とTEM像解析を通して、キラル光学特性の解明と制御を目指す。 ①PS粒子サイズ、②銀イオン濃度、③紫外線の強度・入射角、入射角変化の速度と方向(0°→45°あるいは45°→0°)、④PS粒子の全回転角や回転速度(一定の回転速度、ステップ状の回転速度など)。 銀ナノ粒子はPSの光酸化分解で発生したラジカルと銀イオンとの反応で生成するため、大気中の酸素は銀ナノ粒子集合体の形状等に重要な役割を果たしていると考えられる。そこで、上記の実験を大気下ではなく、窒素雰囲気下で実施し、銀ナノ粒子集合体の形状とキラル光学特性に及ぼす酸素の影響を明らかとし、3次元キラル光学特性を示す銀ナノ粒子集合体内包PS粒子の作製法を確立する。
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