2022 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ結晶粒内のピコスケール歪み分布計測による格子変調エンジニアリングの開拓
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22H01918
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
加藤 健一 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (90344390)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 全散乱 / コンプトン散乱 / PDF / SDD |
Outline of Annual Research Achievements |
原子二体分布関数(PDF)からナノ結晶粒内の格子歪み分布をピコスケールで明らかにするには、全散乱データのSN比向上が鍵となる。PDFの分解能を左右するQ(散乱ベクトルの大きさ)が高い領域での主たるノイズ源はコンプトン散乱である。本研究では、これまで解析的に差し引いていたコンプトン散乱を計測段階で分離し、S/N比を数倍(重元素の場合)から一桁(軽元素の場合)近く向上させる全散乱スペクトロスコピーを開発している。今年度は、エネルギー分散型検出器の一種であるSiドリフト検出器(SDD)をSPring-8のBL44B2にある回折計に新たに3台設置した。既存のエネルギー非分散型検出器のデータと比較するため、既存の計測システムとこれらのSDDを同期して測定できるようにした。この同期システムを使って、コンプトン散乱の影響が大きい標準的な試料を用いて各散乱角における分光スペクトルをステップスキャン法により測定した。各散乱角のスペクトルデータを確認したところ、特に前方散乱においてコンプトン散乱ピークの裾の広がりによる干渉性散乱ピークとの重なり合いが無視できないレベルであることがわかった。そこで、コンプトン波長をピーク位置の初期とした最小二乗法によるスペクトルフィッティングを全ての散乱角において自動で行えるようにした。その結果、前方散乱から後方散乱までほぼコンプトン散乱フリーの全散乱データが得られるようになった。検証のため、フィッティングにより抽出された干渉性散乱強度データをコンプトン散乱の補正を一切行わずに規格化したところ、理想的な全散乱構造因子S(Q)が得られた。また、S(Q)をフーリエ変換して得られるPDFにおいても補正エラーに起因するリップルは観測されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SDDのエネルギー分解能では、前方散乱における干渉性散乱との重なり合いが無視できないレベルであったが、スペクトルフィッティングにより解決できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で開発している全散乱スペクトロスコピーはステップスキャン法であるため、格子変調関数解析に必要なデータを得るには膨大な時間を要する。そのため今後は、スループットの一桁向上を目指して、エネルギー分散型検出器を増設し、さらに散乱強度が微弱な後方散乱ではSiセンサーの代わりにCdTeセンサーを採用する。CdTeセンサーの30 keVでの量子効率は、Siセンサーの3-4倍程度であり、増設分と合わせて測定時間を現実的な時間にまで短縮できると見込んでいる。一方、CdTeセンサーのエネルギー分解能はSiセンサーと比較して半分程度まで悪化するが、後方散乱におけるコンプトン波長をモデル化したピークフィッティング法により干渉性散乱と非干渉性散乱を高い精度で分離可能なシステムを構築する。以上の方法を合金ナノ粒子に応用して、その有効性を実証する。
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