2022 Fiscal Year Annual Research Report
Development of next-generation high-performance superconducting wires utilizing the defect control produced by ion irradiation
Project/Area Number |
22H02020
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
尾崎 壽紀 関西学院大学, 工学部, 准教授 (20756663)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡崎 宏之 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主任研究員 (90637886)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 超伝導薄膜 / イオン照射 / ナノ構造 / エネルギー機能材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
高効率エネルギー材料である超伝導体は超伝導転移温度Tc以下で電気抵抗がゼロになり、臨界電流密度Jcまで電気抵抗ゼロで電流を流すことができる。そのため、超伝導材料を用いたさまざまな応用機器によって低炭素社会実現が可能となる。超伝導材料を用いたこれらの応用機器の多くは、磁場中で超伝導を利用するため、磁場環境下でより多くの(ゼロ抵抗)電流を流さなくてはならない。そのためには、超伝導体内に侵入した量子化磁束線を超伝導体内の常伝導部分(析出物など)で「ピン止め」する必要がある。これまで、イオン照射による磁束ピン止め点の形成には、数百MeV以上の高エネルギー重イオン照射を用いた研究が数多く行われてきたが、近年、数MeV以下の比較的低いエネルギーでのイオン照射においても、磁場中超伝導特性を向上させるのに有効であることがわかってきた。しかしながら、系統的な実験が行われていない。超伝導材料の更なる特性向上のためには、イオン照射条件を系統的に変化させることで、照射条件によって形成される結晶欠陥や密度の違いが超伝導特性に及ぼす影響を明らかにする必要がある。そこで、本研究では、低エネルギーイオン照射によって形成されるナノ結晶欠陥と超伝導特性との関係を明らかにし、照射欠陥や応力歪の導入、また熱処理などによりナノ結晶欠陥制御を行うことで、次世代高特性超伝導薄膜を創製することを目的とする。 2022年度は、低エネルギーイオン照射によるFeSe0.5Te0.5(FST)薄膜の超伝導特性の向上を目指して、照射条件の違いによって薄膜中に形成される照射欠陥が超伝導特性に及ぼす影響を調べた。具体的には、プロトンを190 keVで様々な照射量で照射することで、低エネルギープロトン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軽いプロトンを190keVという低いエネルギーでFeSe0.5Te0.5(FST)薄膜に照射することで、低エネルギープロトン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を調べた。照射量は1x10^14 - 1x10^16ions・cm^(-2)とした。5x10^14ions・cm^(-2)で照射するとTcは0Tで16.7Kから17.0Kに上昇した。さらに照射量を増加させるとTcは0T、10T両方で照射前よりも低下したが、10Tでは照射後のTcの低下は小さくなり、1x10^16 ions・cm^(-2)で照射したFST薄膜においてTcが12.4Kから12.7Kに上昇した。プロトン照射前後のJcの磁場角度依存性を測定すると、照射後に両方の磁場中において、Jcがほぼ全ての磁場印加角度領域で向上していることが確認できた。これはプロトン照射によってFST層中に異方性の小さい欠陥が導入されたためだと考えられる。また、5x10^14 ions・cm^(-2)以上のTcが低下した照射量においても1-9Tの磁場中でJcが向上した。これらの結果から190keVプロトン照射は広範囲の照射量で磁場中でのFST薄膜の超伝導特性を向上させることが分かった。低エネルギープロトン照射と超伝導特性および形成される欠陥の関係を明らかにできたため、達成度としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、低エネルギーイオン照射によるTcとJcの更なる向上を目指して、FeSe0.5Te0.5 (FST)薄膜への照射イオン種と照射エネルギーを変化させて、イオン種とエネルギーの変化が超伝導特性および形成される欠陥の関係を明らかにする。また、イオン照射によって形成された照射欠陥の制御を目的に、雰囲気、温度、時間などの条件を変化させて熱処理を行う。熱処理後の試料は、TcとJcなどの超伝導特性を系統的に調べることで、高特性超伝導薄膜作製のために、薄膜中のナノ結晶欠陥を制御・デザインする技術を構築する。
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