2022 Fiscal Year Annual Research Report
変形・破壊の分子ダイナミクスがもたらす力学作用と光の相互変換
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22H02025
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 優介 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (70618777)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 分子結晶 / 深層学習分子動力学手法 / 分子動力学法 / 密度汎関数強束縛法 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子結晶がもつ力学作用と光の相互変換機能が新たなセンサー材料のシーズとして注目されている。この機能は、分子の電子励起状態ダイナミクスが駆動源となり、結晶の秩序高い構造を通して発現する。本研究では、電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法を開発し、分子結晶の変形・破壊の電子励起状態分子ダイナミクスがもたらす力学作用と光の相互変換機構を解明することを目的とする。 本年度は分子結晶の変形・破壊メカニズムの解析を行った。分子結晶の力学特性は結晶構造が似ていても全く異なる場合がある。本研究では、典型的な例として3,4-ジクロロ安息香酸(CBA)と3,4-ジクロロベンズアミド(CBAM)に着目し、独自に開発した密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)ソフトウェアを活用して分子結晶の力学特性発現メカニズムの解析を行った。CBAとCBAMは非常に似た分子構造、結晶構造を持つにもかかわらず、CBAは塑性変形を示す一方、CBAMは脆性破壊を示すことが報告されている。CBA分子結晶を[010]方向に引っ張ると、分子が傾くことで伸びる様子が見られた。一方、CBAM分子結晶を引っ張ると、分子結晶内に亀裂が生じた。詳細な分子結晶の構造の時間変化から、CBA分子結晶では比較的弱いπ-π相互作用によって分子同士が相互作用しているため、引っ張りに応じて分子が再配向し、エネルギーが散逸されるため塑性変形を示すことがわかった。一方のCBAM分子結晶では、分子同士が比較的強い水素結合で相互作用しているため、分子の再配向によるエネルギー散逸が起こらず、亀裂が生じることが明らかになった。 また、電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法の開発の一環として、DFTB-MDソフトウェアに電子励起状態エネルギー計算機能を実装するとともに、基底状態に対する深層学習分子動力学プログラムの開発を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画通り、開発した密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)ソフトウェアを活用し、分子結晶の変形・破壊メカニズムの解明を行うとともに、電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法の開発を行った。 分子結晶の力学特性は結晶構造と強く相関することが知られているが、この相関には反例も多く、結晶構造が似ていても力学特性が全く異なる場合がある。典型的な例として3,4-ジクロロ安息香酸(CBA)と3,4-ジクロロベンズアミド(CBAM)が挙げられる。両者は非常に似た構造を持つにもかかわらず、CBAは塑性変形を示し、CBAMは脆性破壊を示す。しかし、何がこれらの結晶の塑性/脆性を決めているかは明らかになっていない。そこで本研究では、開発したDFTB-MDソフトウェアを活用し、変形シミュレーションを行った。CBA分子結晶を[010]方向に引っ張ると、分子が傾くことで伸びる様子が見られた。一方、CBAM分子結晶を引っ張ると、分子結晶内に亀裂が生じた。詳細な分子結晶の構造の時間変化から、CBA分子結晶では比較的弱いπ-π相互作用によって分子同士が相互作用しているため、引っ張りに応じて分子が再配向し、エネルギーが散逸されるため塑性変形を示すことがわかった。一方のCBAM分子結晶では、分子同士が比較的強い水素結合で相互作用しているため、分子の再配向によるエネルギー散逸が起こらず、亀裂が生じることが明らかになった。本成果は査読付きの雑誌、J. Phys. Chem. Cに掲載された。 また、本年度は電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法の開発の一環として、DFTB-MDソフトウェアに電子励起状態エネルギー計算機能を実装するとともに、基底状態に対する深層学習分子動力学プログラムの開発を行った。 以上のことから、本年度は研究がおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は以下の方針で研究を進める。 (1) 密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)ソフトウェアに電子励起状態グラジェント計算機能を実装し、電子励起状態ダイナミクスの計算を実現する。 (2)上記(1)で開発するソフトウェアを活用し、単結晶のフォトメカニクス機構の解析を行う。フォトメカニクス機能は光に応答して分子結晶が変形する現象であり、光から力学作用への変換を可能にする。ここでは、同じ光源に対して、異なる変形挙動を示す分子結晶に着目する。電子励起状態DFTB-MD法を用いて単結晶のMDシミュレーションを行い、電子励起状態分子ダイナミクスがどのように結晶内の応力変化に寄与するのかを明らかにし、変形挙動が異なる原因を明らかにする。これにより、フォトメカニクス材料の設計指針を明らかにする。 (3) 電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法の開発を行う。上記(1)で開発するDFTB-MDソフトウェアを活用し、電子励起状態ポテンシャルエネルギー局面のデータを収集する。これを深層学習分子動力学手法に学習させ、電子励起状態ポテンシャルエネルギーを高速で見積もることで、大規模な電子励起状態ダイナミクス解析を実現する。
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