2023 Fiscal Year Annual Research Report
広帯域ラマン分光システムによる相互作用の強い液体・溶媒の動的階層性の解明
Project/Area Number |
22H02028
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
城田 秀明 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (00292780)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | フェムト秒ラマン誘起カー効果分光 / サブピコ秒光カー効果分光 / 分子間ダイナミクス / イオン液体 / 深共晶溶媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
R5年度に本研究プロジェクトで最も顕著な業績は,サブピコ秒光カー効果分光装置(ps-OKE)の作製について,装置の性能の確認を含め,完了したことである。本分光装置では,時間応答は220 fsであり,約1 nsまでの測定が可能となった。強い相互作用をする液体であるイオン液体の典型的なものでは最も遅い緩和がサブナノ秒前後であることが分かっているので,本装置は深共晶溶媒やイオン液体における十分に遅い緩和を決定するだけの性能を有していることが分かる。現在までに,このps-OKE装置および既存のフェムト秒ラマン誘起カー効果分光装置(fs-RIKES)を用いて,深共晶溶媒の中で最も典型的なリラインについて,温度依存性の検討を行った。この成果については,国際会議(TSRP-2024)での招待講演で発表し,現在,論文にまとめているところである。 また,ps-OKE装置を作製しながら同時進行していたイオン液体に関する研究はについて,イオン液体とフォルムアミド系の混合系に関する研究を佐賀大学高椋先生のグループと共同して分子レベルでの混合状態について検討を行った。当研究室は液体物性とfs-RIKESの実験を担当し,混合溶液の分子間相互作用についてフォルムアミド,N-メチルホルムアミド,N,N-ジメチルホルムアミドの違いを明確にした。この共同研究の成果はJ. Phys. Chem. B誌に発表した。また,以前に当研究室で明らかにしていた液体物性において特異な性質を示すチオエーテル基の置換したイオン液体の濡れ特性と表面張力について量子化学計算の結果と比較することで詳細な検討を行った成果についてはLangmuir誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R5年度は本研究プロジェクトでの最も重要な進捗があった。すなわち,サブピコ秒光カー効果分光装置(ps-OKE)の作製を,装置の性能評価を含めて完了した。本装置を作製したことで,従来のfs-RIKESで測定可能であった時間領域が10倍程度長くなった。この装置を用いて,典型的な深共晶溶媒であるリラインの測定を行い,分子間振動と集団的な配向ダイナミクスの温度依存性についての実験を行った。現在,詳細なデータの解析を行っているところであるが,遅いダイナミクス由来の約0.01 cm-1のバンドがスペクトルで確認できた。また,同時にこの研究成果については論文を執筆しているところである。 現在,本ps-OKE装置および既存のfs-RIKES装置を用いて,ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)アミドをアニオンとした深共晶溶媒の実験を行っているところであり,将来的に,同種のアニオンを有するイオン液体との比較を行うことで,クーロン力における水素結合の分子間振動や集団的な配向運動への影響などについて明らかにする予定である。 加えて,イオン液体と分子液体の混合溶液についても佐賀大学高椋先生のグループと共同研究を展開できたことにより,深共晶溶媒と塩の混合溶液の研究に発展できた。深共晶溶媒と塩の溶液との比較という点にも注目すべきであることが明らかになり,今後の展開が楽しみである。また、当研究室で以前に見出したイオン液体のチオエーテル置換基による異常な液体物性への影響についても,濡れ特性と表面張力について明らかにすることができた。この研究は今後の深共晶溶媒を含めた強い相互作用を示す液体系の評価についての指針を示すものになったと考えている。 これらを総合すると,本研究プロジェクトは当初想定していなかった方面にも広がっており順調に進んでいるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
R6年度については,R5年度に新たに作製したサブピコ秒光カー効果分光(ps-OKE)を用いて深共晶溶媒の遅いダイナミクス(集団的な回転的緩和)の検討を中心に行う。また、フェムト秒ラマン誘起カー効果分光(fs-RIKES)による分子間振動ダイナミクスについての実験も継続する。 実験系としては,深共晶溶媒の中で最も典型的なリライン(塩化コリンと尿素の1:2混合物)に注目して実験を行う。特に温度依存性について検討する。また、代表的な塩化コリンをベースとした水素結合分子系(アセトアミド等を候補とする)を選択する。また,最近電解液として注目を浴びているリチウム塩とアミド系分子による深共晶溶媒についても実験を行う。この系については、リチウム塩のアニオンが同じイオン液体の測定も行うことで、深共晶溶媒とイオン液体の分子間ダイナミクス(分子間振動と集団的な回転緩和)の相違点を明らかにできることが期待できる。具体的なアニオンとしては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドを候補として計画している。イオン液体のカチオンには1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムおよび1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオンを選択する。 また、計画がうまく進むようであれば、高濃度塩水溶液にも展開したい。この系は電解液として大変注目されているが、塩を統一して検討することで、深共晶溶媒と水溶液との分子間ダイナミクスや塩と媒体の分子間相互作用について、根本的な相違を明らかにできると期待できる。つまり、深共晶溶媒、イオン液体、高濃度溶液のそれぞれの特徴を本研究で明確になる。この知見は、電解液の特性予測・設計・改質に大いに役立つものと考えられる。
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