2022 Fiscal Year Annual Research Report
pHや共溶質濃度の変化による蛋白質機能調節の機構解明:計算化学とデータ科学の融合
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22H02032
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長岡 正隆 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (50201679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 勇吉 静岡大学, 工学部, 助教 (00855702)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 配置選択定pH法 / アンサンブルMD法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、生体分子機能の理解に向けて、トロンビンやヒトヘモグロビンHbAのT状態-R状態(TR)転移を解析してアロステリック制御の分子機構を明らかにした。一般に、機能性蛋白質はエフェクター分子と部位特異的相互作用によって選択的に結合して機能発現すると考えられてきた。一方、非部位特異的相互作用の役割が再認識されている。実際、X線結晶解析の結果から、HbAのアロステリック制御は、従来考えられてきたT-R遷移という単純な二状態間遷移ではなく、複数の異なるO2結合能をもった状態群が混合しているのではないかと提案されている。 そこで、本年度は、主として、HbAのT-R遷移を対象とする。T状態から開始する分子動力学(MD)シミュレーションを多数実行し、膨大な運動情報(ビッグデータ)を手に入れた。実験的には、主として、R状態Hbはその周辺でR2やRR2などの構造間を動的に遷移していると言われてきた。そこで、βHis143及びβHis146のプロトン化状態を変更したMDシミュレーションを通して、これらの残基側鎖のプロトン化状態変化が構造的安定性に及ぼす影響について調査した。実際、βHis143 とβHis146 の立体構造変化に対する寄与、特にこれらの残基のプロトン化状態がR状態構造安定化に大きな役割を果たすることが示唆された。また、後半では、配置選択定pH法を用いて、アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)水溶液に対して、pH曲線や水和構造変化を再現することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R5年2月までに、事前準備、アンサンブルMD法の予備計算実施、アンサンブルMD法の本格計算準備、アンサンブルMD法の本格計算実施を行い、令和5年3月までに、成果のとりまとめを行う予定であった。しかし、雇用を予定していた研究協力者が、現職の業務遂行上の都合により、令和5年1月に着任することができなくなった。しかし研究遂行上、アンサンブルMD法の本格計算を実施できる、同様の知識技能をもつ新たな人材を確保することが不可欠なため、経費を繰り越すと共に、研究協力者が参画可能となる令和5年4月以降、5月からアンサンブルMD法の本格計算を延期して実施したため。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度(R4年度)では、pHや共溶質濃度の変化による生体分子機能の理解に向けて、グラフィックボードユニット(GPU)対応版の配置選択定pH法の開発、およびヒトヘモグロビンHbAにおけるボーア効果に対するHis残基の寄与について解明した。 本年度(R5年度)5月からは、アンサンブルMD法の本格計算を実施し、当初の予定に戻すように努めると共に、pH応答型膜貫通ペプチドの理解を目指して、酸性残基からなる多プロトン化部位を有するペプチドに対して、これまでに我々が開発したGPU対応版配置選択定pH法を適用する。pHD15ペプチドなどの酸性残基を含むペプチドはpH条件に依存して脂質膜を貫通し、孔構造を形成することで抗がん剤等の薬剤を運搬することが期待されている。異なるpH条件での立体配座変化に対して、主鎖の構造変化をラマチャンドランプロット上での分布変化、溶媒和構造の解析結果する。 加えて、ヘモグロビンにおいて観測されているエフェクター分子と部位特異的相互作用の相関関数について、非部位特異的相互作用の役割を分子動力学(MD)シミュレーションから解明を進める。R状態Hbはその周辺でR2やRR2などの構造間を動的に遷移していると言われており、初年度ではβHis143及びβHis146の残基側鎖のプロトン化状態変化が構造的安定性に及ぼす影響について明らかにしてきた。さらに、R状態以外の立体構造を初期構造として、溶媒中に溶存する酸素分子や塩素イオンの濃度を大きくした条件でのMDシミュレーションを実行して、これらのエフェクター分子の濃度依存性に対する非部位特定的な寄与を明らかにする。
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