2022 Fiscal Year Annual Research Report
正確な理論合成化学の基礎となるシュレーディンガーレベルの量子化学の構築
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22H02045
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Quantum Chemistry Research Institute |
Principal Investigator |
中辻 博 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 理事長 (90026211)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | シュレーディンガー方程式 / Scaledシュレーディンガー方程式 / exact解に基づく量子化学理論の建設 / 自由完員関数理論 / 基底・励起状態 / exactポテンシャル曲線 / RKRポテンシャル / 量子化学の高精度化 |
Outline of Annual Research Achievements |
Schroedinger equationは原子・分子からなる物質世界を支配する基礎方程式である。従って、この方程式の正確な解に基づく量子化学の建設は量子化学理論の目標でありまたその出発点でもある。にもかかわらず、多くの科学者の努力の結果むしろこの方程式は解けないとする悲観論が2000年まで大勢を占めていた。そんな中、中辻は2004年に世界で初めてこの方程式の一般解法・自由完員関数理論を発表し、その悲観論を打破し、理論に道筋をつけた。その後、我々は自由完員関数理論を更に有用な理論・方法論にすべく努力を続けてきた。今年度はその理論の完成に注力し、中辻理論の要でもあるScaled Schroedinger equationのscaling 関数 gの一般化に成功し、波動関数の高精度化とその容易化を同時に達成した。更に、完員関数の対角化のためのサンプリング理論としてlocal sampling法を導入し、その方法として逆変換(直接)法を共同研究者・中嶋とともに導入し、メトロポリス法の使用を避けrandomness errorを排除した。これは理性的サンプリング法ともいえる。これらの理論を使って、小さな2原子分子、Li2の基底・励起状態の9個のポテンシャル曲線を計算し、実験的に求められていたRKRポテンシャルと極めて高精度に一致することを示した。更に、CH+の基底・励起状態にも応用した。これらの結果から得られる理論的な安定構造、色々な振動状態の力の定数やその他のpotential propertiesは実験値と何桁も一致し、従来の量子化学とはけた違いの高精度化が確認された。このように、我々の研究により量子化学は本来の高度な予言性を確立し、今後姿を変えて発展していくことが示唆される。その道を確実にし、更に発展させることが、次年度以降も本研究に課せられた使命である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Schroedinger equationのexact解のレベルの量子化学理論の構築は世界の量子化学研究の夢である。しかしながら、それを達成したのは本理論のみであり、その理論展開も全く申請者の独創によるものである。本研究のプロセスは、まさに未到の山を登るがごとくであり、地図もなく助言もない、全て初体験であり、思わぬ障害も一つ一つ取り除いて進まなければならない。 このような中で、化学者が頼る大きな指針は「化学式」である。これを私たちの研究の中に取り入れる道を開いたのが化学式理論(chemical formula theory)である[J. Chem. Phys. 149, 114105 (2018)]。この理論では、個々の原子・分子は、そのあらゆる基底・励起状態が、Brillouin的に相互作用することで成立しており、形成していることを基本認識とする。この立場で理論合成化学を、exactなシュレーディンガー方程式の正確な解に基づく理論により構築してゆくことが、本申請の要点である。前年度は、まず二原子分子の基底・励起状態の正確なポテンシャルカーブの計算に努力したが、達成できたのは高々6電子系である。今後もっと多電子系の二原子分子の基底・励起状態のポテンシャルカーブの計算に応用する。その上で、更により複雑な分子系のポテンシャル曲面の計算に対象を広げ、合成化学研究の基礎と発展に資するような研究をして行きたい。化学的直観とchemical formula theoryによって、道を切り開いていきたい。大事なことは、2004年に提案した自由完員関数理論は、素晴らしい予言力のある理論であり、今まで全く欠陥を露したことがない、完璧な理論である。従って、この理論通りに行い、その理論のままに全力投球することこそ正しい道であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以後の研究の推進の中で大事なことは、自由完員関数理論をさらに有用な理論に育て上げることである。その為、まずはより大きな二原子分子の基底・励起状態の正確なポテンシャルカーブの計算に応用する。First-row atomsからなる2原子分子、更に遷移金属を含む分子、更には、f電子をも含む原子・分子も対象にする。後者としては、量子化学的に良く取り上げられる遷移金属分子やランタノイド発光材料などは先行研究もありまず取り上げる。これらの系の中で、実験的にRKRポテンシャルが決められているものは、研究の正確さを見るうえで、格好のターゲットである。 次に、完員関数理論と同じく私たちのSAC-CI理論を融合的に扱い、両理論とも従来はできなかった更なる発展の道へ誘導していきたい。これは、完員関数理論を巨大分子を対象とする研究に応用していく道でもある。さらにこのような巨大系では、パウリの原理が次第に減衰していくことが、申請者によって確かめられており[J. Chem. Phys. 142, 194101 (2015)]、ある距離以上離れた原子対についてはその電子間の反対称化が不必要になる。このinter-exchange 理論を計算の中で取り入れることにより、巨大系と言えどもexact theoryの対象に含めて行けることを、計算によって実証したい。その様な計算対象としては、すでに1998年頃SAC-CI理論によりに研究した紅色光合成細菌Rhodopseudomonas Viridisの全電子移動経路の理論的解明の研究[J. Phys. Chem. B102, 10410, 10420 (1998)]の経験が大きく生かされるものと期待している。これらの計算を基に、最近研究が進展している緑色植物の光合成系PSIIの反応を、このexact theoryによって研究したい。
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Research Products
(6 results)