2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22H02054
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
綱島 亮 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (70466431)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西原 禎文 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (00405341)
帯刀 陽子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30435763)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 固溶体 / 分子結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
固溶体は組成で物性を変調でき、無機化合物、ひいては材料科学の醍醐味である。他方、分子の幾何的な特徴は固体の構造や物性と結びつきが強く、固溶度の高 い分子ほど物性・構造の組成変化が小さい。つまり、固溶体を用いた材料・物性科学と分子固体の本質は決定的に異なり、本研究ではこの壁を超える新たな分子 固溶体とその物性を探究している。具体的には「似て非なる」分子の固溶体を用いて組成と構造の乱れを関連付け、分子運動~強誘電性~の変調・制御を実現す る。これを金属フリーなABX3型のペロブスカイト構造で達成し、無機ペロブスカイト型固溶体に取って代わる、次世代強誘電材料を目指した。結晶中の分子は、自身が占める体積を最小に、空間の対称性(空間群)が最高になる様に充填する一般則がある 。後者は特に分子結晶に本質的で、形状や対称性の異なる異形分子の固溶化は対称性を下げる。しかし、分子の平均的な構造に着目し、例えば球のような等方的な形状で近似できる「仕掛け」を創り出すことで、無機固溶体に限られていた構造・物性の組成変調、組成相境界の出現など、今までの分子固体で踏み入れられなかった領域を拓くことが期待できる。その仕掛けとして今回、分子の概形が類似で対称性が異なる「似て非なる」分子の組について、対称の相違に基づいた格子中の分子運動に対する影響を理解・制御し、誘電率・キュリー温度・抗電場などの強誘電性の組成制御やPZTのような組成相境界を利用した高パフォーマンス材料の創出を拓くための研究を進めた。2023年度に得た知見として、(1)水素結合型強誘電体における対アニオンの固溶化による構造と物性の組成制御、(2)1,3,5-Triaza-7-phosphaadamantaneを用いた単純塩とその構造相転移挙動、が挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)水素結合内のプロトン揺動は古くから強誘電体の機序であることが知られていた。一方、dabcoとよばれる有機アミンを用いた場合、BrやIイオンを対アニオンとした塩がリラクサー型強誘電性を示すことも知られている。今回、リラクサー型強誘電性を示すdabcoH・X(X=Br, I)について、Xの固溶化による構造と強誘電性の変化を調査し、固溶化により水素結合距離が伸びる温度域を見出し、これが強誘電性を示すことを明らかにした。 (2)我々はこれまで、四面体型の有機アミンであるヘキサメチレンテトラミンを用いてペロブスカイト構造を作製してきた。今回、N原子をひとつPに置換した1,3,5-Triaza-7-phosphaadamantane(pta)を用いてハロゲン化物イオンを対アニオンとした、ptaH・X(X=Cl, Br, I)を新たに作製し、その構造の温度変化を調査した。X=Iとした塩が400K付近において構造相転移を示すことを見出だした。室温において極性構造であったことから強誘電性が期待でき、現在その評価を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)固溶体の開発;昨年度同様、dabco、hmta、ptaのN原子をプロトン化やメチル化させ、分子径や対称性を変えたジカチオンを用いる。ペロブスカイト型構造以外の、単純塩や水素結合型リラクサー強誘電体においても興味深い知見が2023年度にえらえたことから、併せて固溶体の探索を進める。具体的には、温度と組成比に対する構造・誘電相の変化、分子運動性を明らかにした状態図を作成する。評価は、結晶化過程の追随=NMR、固溶比決定=TG・質量分析、純度・結晶系の決定=X線回折(単結晶・粉末)、構造相転移挙動=DSC・誘電率の温度変化・温度可変X線回折、で行う。結晶中分子の運動状態評価は、適宜、固体NMRで行う。また、結晶化温度毎に、仕込み比と固溶比の相関を導く。配向無秩序化が見込める高温程、Aサイトを占める分子は「球」となり高い固溶度が期待できる。無機・分子に拘らず固溶体に関する知見が本研究で扱う固溶体にそのまま当てはまるとは限らず、改めて探究する必要がある。これにより同時に、A分子の対称性・許容因子・空間群・水素結合活性を因子に、固溶度・転移温度・誘電率などの構造-物性相関が理解でき、(2)と(3)につなげる。(2)固溶型強誘電体への展開;自発分極をもつ系について、自発分極、抗電場、転移温度といった強誘電特性を評価し、物性の組成や温度変化を予測・設計できるようにする。それに伴って必要となるhmta, pta, dabco以外のアダマンタン型ヘテロアミンやXアニオンを設計・合成する。評価方法は(1)に準ずる。(3)組成相境界の検証;空間群が異なるが格子定数が類似の相境界付近では構造が不安定になり、圧電性や強誘電性が増強されることがPZTなどで示されている。この知見に基づき、該当しうる固溶体について組成比を可能な範囲で細かく変え構造と物性を再調査することで異常物性を探索する
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