2022 Fiscal Year Annual Research Report
低原子価の13・14族高周期元素ー金属結合の協働作用を鍵とする高活性反応場の創製
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22H02088
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
橋本 久子 東北大学, 理学研究科, 教授 (60291085)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高周期元素 / 金属錯体 / 協働作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度には、主に以下の成果が得られた。 1)クロムーケイ素間三重結合錯体の合成:三重結合錯体の合成において最も合成が難しいとされる3d金属の一つであるクロムを用いて、ケイ素三重結合錯体(シリリン錯体)を合成することに成功した。これは、中性のクロムシリリン錯体として初めての例である。これまでに合成されているタングステンおよびモリブデンの類縁錯体とは異なり、結晶状態でも単量体として存在することを、X線結晶構造解析により明らかにした。また、DFT 理論計算により、6族の類縁錯体の中で、三重結合が最も強く分極しπ結合が弱いことが示唆された。この結果は逆に、クロム錯体が高い反応性を示すことを示唆するものであり、今後の反応研究の重要な知見である。 2)モリブデン―ゲルマニウム三重結合錯体を触媒とするニトリルのヒドロホウ素化反応:これまでに合成したモリブデン―ゲルマニウム三重結合錯体(ゲルミリン錯体)が、様々なニトリルのヒドロホウ素化反応の触媒になることを見出した。これは、高周期14族元素からなるこれら三重結合錯体の2例目の触媒反応である。反応機構の詳細を明らかにするために、共同研究として分子軌道計算を行い、律速段階を明らかにしたところ、遷移状態でも金属―ゲルマニウムの多重結合性がかなり残っていることが明らかになった。これは単結合活性種が生成するという我々の予測とは大きく異なる結果であり、これら三重結合錯体の反応様式に新たな視点を与えるものとなった。 3)低原子価のアルミニウム錯体の合成とXPS測定:ゼロ価のアルミニウム配位子を有するタングステンと鉄の単核錯体を塩基(N-ヘテロサイクリックカルベン)が配位した形で合成・単離に成功し、X線構造解析によりこれらの構造を明らかにした。共同研究により、XPS測定を行い、錯体中のアルミニウムが実際にゼロ価に近い状態にあることを実験的に明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要の項で述べたように、ケイ素三重結合錯体や低原子価のアルミニウム錯体の合成および触媒反応の開発においては、幾つかの重要な成果が得られた。一方で、申請当初に課題の1つとして考えていた、従来の錯体合成に用いていたCp*配位子をテザー型のCp誘導体に置き換えた錯体の合成は、予定通りは進んでいない。この原因は、テザー型のCp誘導体の合成はできたものの、金属に想定通したような二座配位型では配位しないためである。金属ユニットやテザー部位の置換基の改良などが今後の課題である。従って、計画以上に進んでる課題もあるが、そうではない課題も少しあり、総じて、おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況の項で述べたように、錯体の支持配位子であるCp*配位子をテザー型のCp系の誘導体に替えるという方向は、あまり順調には進んでいない。しかし、Cp上にトリメチルシリル基やtブチル基を導入した配位子は合成できるので、これらの配位子を導入した錯体の合成を進める。それ以外には、既に合成できている錯体を用いた反応性研究を進める。例えば、中性のクロム―ケイ素三重結合錯体は、極性のない水素分子とも反応することを示唆する知見が得られている。これまでの中性の6族錯体では見られなかったことであり、その反応メカニズムの解明は、金属―ケイ素三重結合の本質の理解に重要な知見を与えると共に、水素活性化の新しいプラットホームの構築に発展する可能性がある。この反応においても、不飽和な金属およびゲルマニウムに因る協働的な作用が発現していると推測しているが、中間体を捕捉する実験や理論計算を行うことで解明することを新たに進める。また、モリブデン―ゲルマニウム三重結合錯体を触媒としたニトリルのヒドロホウ素化のメカニズムを明確にするとともに、さらなる触媒反応の応用を開拓する。不飽和有機化合物として、カルボニル化合物や二酸化炭素などの不活性な分子の変換に挑戦する。これらにより、金属―高周期元素多重結合を反応場とする分子変換反応の開発を進める。また、今年度も進めたように、理論計算の専門家や固体物性の専門家とも共同研究を行い、学術的に高いレベルでの研究を推進する。
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