2022 Fiscal Year Annual Research Report
新規可逆的リジン修飾化学の開発とコバレントドラッグ創薬の標的拡張
Project/Area Number |
22H02222
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
進藤 直哉 九州大学, 薬学研究院, 助教 (20722490)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | コバレントドラッグ / リジン / ケミカルバイオロジー / 創薬化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
コバレントドラッグは標的タンパク質と共有結合することで、不可逆的に機能を阻害する。強く持続的な薬効などの利点の反面、非特異反応による毒性の懸念から従来の創薬研究では避けられる傾向にあったが、近年では標的タンパク質と選択的に反応するよう論理的にデザインされたコバレントドラッグの開発が盛んになっている。現在のコバレントドラッグは、高い求核性を示すシステイン残基との反応を利用するものがほとんどである。しかし、遊離チオール基を持つシステイン残基はヒトプロテオーム中での存在割合が低く、選択性の確保では有利となるが、コバレントドラッグで標的可能なタンパク質の種類は限定される。これに対し、プロテオーム中に豊富に存在するリジン残基を狙うことで、標的可能なタンパク質の飛躍的な拡張が期待できる。一方、毒性懸念を最小限に抑えるためには、非特異反応による共有結合付加体が可逆的に解離することが望ましい。本研究では、リジンの可逆的共有結合修飾を可能とする新たな分子デザインとして、β-フルオロビニルスルホン (FVS) を提案し、有機化学的な基礎検討およびコバレントドラッグ創薬への応用を検討する。これまでにFVS誘導体の合成法を確立し、リジン残基のモデル化合物としてN-アセチルリジンに対する反応性を評価した結果、FVSがアミン反応性を示すことを明らかとした。さらに、遊離したアミンを蛍光検出するアッセイ系を用いたFVS-アミン付加体の安定性評価により、付加体が水中で迅速に解離することを見出した。すなわち、FVSが想定通りリジンを可逆的に共有結合修飾可能であることを確認した。一方で、FVSはモデルチオールであるグルタチオンとも反応し、FVS-チオール付加体はアミン付加体とは対照的に高い水中安定性を示した。現在、FVSのアミン反応選択性の向上を目指し、構造最適化を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FVS誘導体の合成法を確立し、β位に様々な置換基を有するFVSを合成した。FVSの基礎的化学特性の評価として、リジン残基のモデル化合物としてN-アセチルリジンを用い、水中 (pH9.3) におけるFVSとの反応を検討した。その結果、FVS誘導体がβ位置換基によって幅広いアミン反応性を示すことを明らかにした。β位置換基がアルキル基の場合、メチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基と嵩高くなるにつれ反応性が低下した。β位置換基がアリール基では、芳香環上の置換基によって反応性が調節可能であった。比較としてβ位フッ素を持たないスルホンアミドも評価したところ、N-アセチルリジンに対して反応性を示さず、β-フッ素によってアミン反応性が向上したことがわかった。また、FVSの類縁体としてβ-クロロおよびβ-ブロモスルホンアミドも検討したが、FVSと比べアミン反応性が低く、水中安定性にも問題が見られた。さらに、水中でアミンと迅速に反応して発蛍光生成物を与えるフルオレスカミンを用い、FVS-アミン付加体から解離したアミンを蛍光検出するアッセイ系を構築し、付加体の水中安定性を評価した。その結果、いずれのFVS-アミン付加体も水中で速やかに分解したものの、β位置換基がアルキル基よりもアリール基の場合に比較的安定性が高くなることが分かった。このように、FVSによりリジン残基の可逆的共有結合修飾が可能であることを明らかとした。一方で、システイン残基のモデル化合物としてグルタチオンとの反応 (水中、pH 7.4) を検討したところ、FVSがチオールとも反応することが判明した。さらに、水中で迅速な分解が見られたFVS-アミン付加体と異なり、FVS-チオール付加体は水中で高い安定性を示した。FVSをリジン標的コバレントドラッグに応用するためには、化学選択性の向上が今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、β-フルオロビニルスルホン (FVS) 誘導体のリジン残基選択性向上を目指した検討と、標的タンパク質のリジン残基を狙ったコバレントドラッグへの応用を検討する。これまでの検討により、FVSとアミンの付加体が水中で迅速に加水分解され、リジンの共有結合修飾が可逆的となることを明らかにした。一方、チオールとの付加体は安定で、システイン残基とは不可逆的に結合することが示唆された。そこで、各種置換基を有するFVS誘導体を合成し、システイン残基に対する反応性が低く、リジン残基とより化学選択的に反応する誘導体の創出を目指す。また、コバレントドラッグへの応用として、熱ショックタンパク質90 (Hsp90) を標的としたFVS型コバレント阻害剤を開発する。Hsp90は様々なタンパク質のフォールディングを補助するシャペロン分子である。癌の生存・増殖に必要な様々なタンパク質もHsp90のクライアントであり、Hsp90阻害によりこれらのタンパク質を不安定化することで、マルチモーダルな抗癌作用が期待できる。ATPポケット近傍にLys58があり、アデニン骨格の可逆阻害剤PU-H71にリジン反応性求電子基を導入したコバレント阻害剤が報告されている (Nat. Commun. 2018, JACS 2020)。本研究でもPU-H71の骨格を採用し、FVSを導入した誘導体を合成する。誘導体にはレポータータグとしてアルキンを導入し、精製Hsp90やヒト乳癌由来のSKBR3細胞を用いたActivity-based protein profiling (ABPP) により、Hsp90との共有結合形成の確認や選択性の評価を行う。
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[Journal Article] Discovery of chlorofluoroacetamide-based covalent inhibitors for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 3CL protease2022
Author(s)
Yuya Hirose, Naoya Shindo, Makiko Mori, Satsuki Onitsuka, Hikaru Isogai, Rui Hamada, Tadanari Hiramoto, Jinta Ochi, Daisuke Takahashi, Tadashi Ueda, Jose M. M. Caaveiro, Yuya Yoshida, Shigehiro Ohdo, Naoya Matsunaga, Shinsuke Toba, Michihito Sasaki, Yasuko Orba, Hirofumi Sawa, Akihiko Sato, Eiji Kawanishi, Akio Ojida
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Journal Title
Journal of Medicinal Chemistry
Volume: 65
Pages: 13852-13865
DOI
Peer Reviewed
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