2023 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯林生態系のリン制限仮説の再検証:新たなパラダイムの創出
Project/Area Number |
22H02390
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
今井 伸夫 東京農業大学, 地域環境科学部, 准教授 (00722638)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青柳 亮太 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (20795132)
森 大喜 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (90749095)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 施肥実験 / 栄養塩利用効率 / 菌根菌 / 樹木サイズ / 炭素制限 |
Outline of Annual Research Achievements |
マレーシア・サバ州デラマコットの原生林と二次林において、0.12 haプロットがそれぞれ4処理(P施肥、N施肥、P・N施肥、無施肥)×3反復ずつ設置されている。これまで、4処理区で優占するEM, AM性樹種の両方を含む8種×3個体について、材(成長錐)、生葉(高枝切鋏とパチンコ)、落葉(リターフォールトラップ)、根滲出物(ガラス・フィルター)をサンプリングしてきた。今年度は、これらの化学分析を行った。低リン環境に生育する熱帯樹木の材のリン濃度、根滲出物中の炭素濃度は特に低濃度で、一般的な分析機器では検出限界以下となるため、高精度な機器での予備分析などに時間を要した。また、各プロットにおいて、葉面積指数(LAI)の定期測定と、リタートラップ法による葉生産の測定を継続した。生物サンプル輸入手続きを行い、リターサンプルの輸入を行った。今後、リターの栄養成分分析を行う予定である。 フタバガキ科樹木のデータを用いてリン利用効率と関わる形質と樹木個体のリン収支をモデル化し、理論的に低リン環境への適応と成長速度との関係を調べた。これにより小さいサイズの個体は、形質の変化によりリン利用効率を高めることができず、リン制限が起こりやすいことを示した。この内容を論文出版することが出来た。 土壌微生物の栄養制限を酵素の比率から予測できるとする近年世界的に広がっている新理論(酵素ストイキオメトリー理論)に異を唱えて理論的な反証を行った。また、この理論的反証を基に、「酵素ストイキオメトリー理論が熱帯林の土壌微生物活性がリン制限を受けていることが証明された」とする主張に対する反論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サバ州の施肥実験区における生物サンプル(細根、滲出物、材、生葉、落葉、リターフォール)のサンプリングが、予定どおりすべて終了した。 なぜ樹木がリン欠乏において高い生産性が達成できているのか(=低リン環境で強いリン制限を受けずに成長できるのか)について網羅的なレビューを行った。その結果を、樹木の適応の重要性について仮説を提唱する論文を出版することが出来た。 「熱帯林の土壌微生物活性がリン制限を受けている」というパラダイムを支持する新たな根拠である酵素ストイキオメトリー理論に関する理論的検証を一通り完了し、本理論の誤りを明示することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、サンプリングしてきた生物サンプルの化学分析を実施する。リン欠乏適応については、複数の種を対象に調査を進める。また、微生物はリンではなく炭素によって制限されていることを明らかにするためのリン添加実験を行う。
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