2022 Fiscal Year Annual Research Report
Mobilization of air pollution legacy accumulated in forest ecosystems due to extreme weather
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22H02401
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Asia Center for Air Pollution Research |
Principal Investigator |
佐瀬 裕之 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 部長 (20450801)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷川 東子 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10353765)
山下 尚之 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (30537345)
藪崎 志穂 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 上級研究員 (60447232)
諸橋 将雪 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 主任研究員 (40761606)
四柳 宏基 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 生態影響研究部, 主任研究員 (60937209)
黒川 純一 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 情報管理部, 総括研究員 (70534262)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 硫黄 / 土壌・植生系 / 循環・蓄積 / 吸脱着プロセス / 増水時 / 臨界負荷量 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌・植物系における硫黄(S)循環・蓄積状況の解明のため、樹齢400年以上の樹木の年輪分析を実施した。大湫神明神社(岐阜県)および伊勢神宮(三重県)で倒木したスギ年輪に保存されていたSの同位体比(δ34S)は、産業革命以前には10‰程度のバックグラウンド値を示したが、日本が開国した時期から低下が始まり、中東由来の石油輸入が増大した太平洋戦争終結以降は0‰程度にまで低下するなど、大気環境を反映していた。なお、当初予定した加治川集水域(KJK)における土壌調査は、2022年8月の記録的豪雨による表面流出が著しく、COVID-19の感染拡大の状況も考慮し、2023年度に改めて実施することとした。 KJKでは、冬季に著しく大きくなるS沈着にも関わらず季節的な酸性化は生じていないが、その緩衝機構として、土壌表層におけるSO4吸脱着プロセスが主に寄与していることが、降水、リターフォール、土壌溶液、河川水に至るS同位体比分析の解析から示唆された(Saito et al. 2023, JFR)。また、降雨による増水時においてもS同位体比は9‰前後で安定しており、上記プロセスによる迅速な緩衝機構を示唆した(投稿準備中)。伊自良湖集水域(IJR)では、自動採水機を用いた夏季集中観測を実施し、増水に伴うNO3濃度の上昇は3イベントで確認できたが、以前に示唆された土壌表層からのSO4流出は確認できなかったため、2023年に再度実施する予定である。 北東・東南アジア全域を対象にした、臨界負荷量を用いた広域影響評価を初めて実施し、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)の長期観測データとの整合性も確認した(Yamashita et al. 2022, STOTEN)。また、大気モデリングコミュニティ(MICS-Asia)やEANETのプロジェクト活動との連携も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
産業革命以前からの長期的な大気環境の変化が、年輪Sに記録されており、土壌・植生系でのS循環が大気環境の変化に応答していたことを明らかにした。一方で、日本海側のKJKで季節的に大きくなる大気S沈着は、主に土壌での吸脱着プロセスにより緩衝されるため、急激な河川酸性化が生じていないことを明らかにした。さらに、降雨による増水時においても、そのプロセスが迅速に機能することも示唆された。大気沈着由来のSの生態系内での挙動に関する理解が進み、KJKのような流入・流出のバランスが比較的取れている地点での、Sの保持・流出プロセスが明らかとなった。今年度実施する土壌分析における着目点も示された。今後、地質の影響が大きいIJRでの大気沈着由来のS流出メカニズムとの比較により、どのような条件下で、極端気象の影響を受けやすいのか、さらに理解が進むことが期待できる。 また、赤道付近の東南アジア諸国までを含む臨界負荷量マップを、ほとんど初めて作成・公表した。欧米に比べ湿潤な地域が多く、モンスーンなどによる気象や物質循環の季節性も大きいアジアでの影響評価マップは、本研究が目指す極端気象・気候変動による大気汚染レガシーの撹乱の広域影響評価を進める上で、関連手法の援用も含め、非常に有用な経験・知見となった。広域影響評価には、大気モデリングコミュニティとの連携が必須であるが、アジア地域でのモデル比較研究を推進するMICS-Asiaとの連携の議論を進めたことにより、信頼性の高い妥当なシミュレーション結果を今後の解析に用いることが期待できる。 KJKやIJRはEANETの関連サイトであるが、集中調査や既存データの活用などを含む本研究との連携について、EANETのプロジェクト活動の一環としても認められ、本研究の成果をより国際的にアピールする状況も整った。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の年輪Sの分析は、歴史的なターニングポイントを考慮した代表的な年代に絞ったものであったが、2023年度からは、より詳細に5-20年くらいのスパンで年輪分析を進めることにより、干ばつや冷夏などによる極端気象による変化との関連性も含め解析を進める。 KJKでは、土壌のSO4吸脱着プロセスが保持・流出に大きく関わっていると考えられたため、2023年度から進める土壌分析においても、その点に留意する。また、IJRとの差異がどの辺りにあるのか、それを明確にすることを目標とする。IJRでは、土壌表層に大気沈着由来のSが多量に蓄積していることから、どのタイミングでそれが流出するのかに着目しながら増水時の集中調査を進める予定である。 上記のデータも含め、どのように大気沈着Sが森林生態系内で循環・保持され、どのような条件下で流出するのかを考慮した、リスクマップの作成を進める。その際キーとなる大気沈着データについては、MICS-Asiaを含むモデリングコミュニティから、可能であれば累積の沈着量データを得られるよう相談し、本研究が着目する大気汚染レガシーをより明確に推計することを目指していく。 また、上記Sの挙動解析と並行し、大気沈着由来のNや微量元素などの森林生態系内での挙動についても検討を進める。さらに、これら国内のEANET関連サイトで得られた知見を、EANETを含む国際会合で共有し、より普遍的なテーマとして、研究の発展を目指していくこととする。
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Research Products
(14 results)
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[Presentation] Seasonal variations and trends of dissolved elements in rainfall and stream water in a small forest catchment area of central Japan2023
Author(s)
Morohashi M, Takahashi M, Saito T, Inomata Y, Nakata M, Kose T, Shin KC, Tayasu I, Ohizumi T, Sase H
Organizer
The 10th International Conference on Acid Deposition, ACID RAIN 2020 - The Future Environment and Role of Multiple Air Pollutants -
Int'l Joint Research
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