2023 Fiscal Year Annual Research Report
スジアラをモデルとした沿岸性魚類の分布域拡大機構の解明
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22H02429
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
奥山 隼一 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(長崎), 主任研究員 (80452316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 健太郎 東京都市大学, 理工学部, 准教授 (20792766)
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (60709624)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | バイオロギング / 粒子追跡シミュレーション / 海洋循環モデル / 同位体比分析 / 耳石 / ハタ / 温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、奄美群島から九州北西部へと既に分布域北限の北上が確認されているスジアラをモデルとして、沿岸性魚類の分布拡大機構を解明することを目的としている。目的達成のために、①深度・水温・照度記録計を用いたスジアラ成魚の行動追跡による成魚の移動・拡散能力の推定、②海洋循環モデルと粒子追跡シミュレーションを用いたスジアラ卵・仔魚の拡散能力の推定、③耳石の酸素同位体比分析に基づく、未成魚・成魚の分布域変動履歴の推定 の各研究を実施し、スジアラが分布域を北方へ拡大したメカニズムを解き明かすことを目指す。 本年度では、①分布域北限である長崎県対馬でスジアラを捕獲し、行動記録計を装着して放流する予定であったが、供試魚の捕獲に至らなかったため、代替措置として同じく熱帯性ハタ類であり分布の北上が確認されているアカハタ10尾に行動記録計を装着して、同海域に放流した。また沖縄県八重山諸島において昨年度放流した10尾のスジアラのうち、一尾を再捕し、従前の生息地である放流地点からほとんど移動しなかったことを明らかにした。②粒子追跡シミュレーションを用いて、長崎県対馬・五島列島、鹿児島県甑島に生息するスジアラ幼魚の出生地を調べた結果、多くは九州西岸が出生地であると推定されたが、わずかながらに台湾から来遊してくる個体が存在する可能性が示唆された。③八重山諸島、奄美大島、対馬で捕獲されたスジアラそれぞれ9尾、9尾、8尾の耳石の酸素安定同位体比を耳石の輪紋ごとに分析した。その結果、生まれてから3歳になるまでに経験水温が減少していることが明らかとなり、この初期成長期の間に生息域を北へ移動しているか、深場へ移動している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、行動記録計によるスジアラの行動追跡、粒子追跡シミュレーションによる仔魚・幼魚の拡散過程の推定、耳石の酸素安定同位体比分析による未成魚・成魚の経験水温履歴の推定の3つに大別されるが、そのいずれもほぼ計画通りに進行しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、以下の3つの実験を計画している。①行動記録計を用いて長崎県五島列島に生息するスジアラ成魚の移動追跡実験を行う。②野外・飼育条件下のスジアラ幼魚の着底時期を明らかにし、それをシミュレーションシナリオに組み込むことで、より精度の高いスジアラ仔魚・幼魚の拡散過程の推定を行う。③水温履歴が既知であるスジアラ飼育個体の耳石酸素安定同位体比を調べることで、より精度の高いスジアラの経験水温の推定技術を開発する。 また次年度は最終年度であるため、これらの成果をとりまとめスジアラの分布域北上の過程・速度についてその背景にある生態的・生理的メカニズムを考察する。
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