2023 Fiscal Year Annual Research Report
Prediction of water, heat and solute transport in freezing soils with salt segregation for sustainable usage of cold regions
Project/Area Number |
22H02455
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
渡辺 晋生 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10335151)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武藤 由子 岩手大学, 農学部, 准教授 (30422512)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 凍土 / 地盤凍結 / 塩害 / 近赤外スペクトル / 不凍水 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、前年度に検討した境界条件や凍結条件を用いて、塩化ナトリウムを含む土の一次元カラム凍結・融解蒸発実験を進めた。そして、表層からの土壌凍結時に下層の未凍土から水分が凍土層に移動すること、それにより湿潤化した表層からの融解時の蒸発量が可能蒸発を長く維持することで非凍結環境より増加することを示した。数回の凍結融解サイクルでは、蒸発量やそれに伴う塩の地表への集積量の増加は数%程度と大きくはなかったが、こうした塩の集積は、年間数10回の凍結融解が幾年も続く地域では無視できない量であると考えられた。また、土に塩が加わると、塩の濃度が高いほど、また解離度が高いほど、土中水の塩ポテンシャルの増加により蒸発そのものが抑制されるだけでなく、凍結による凍土中への下層からの水分移動量も低下し、可能蒸発を維持できる時間が短くなることも示唆された。一方、土の凍結面近傍の観察系へのハイパースペクトルカメラの導入においては、まずハイパースペクトルカメラで撮影した凍結過程にある土の反射スペクトルを解析し、アイスレンズの反射率が凍土や未凍土に比べて著しく低かった実験結果に基づき、アイスレンズの析出量の定量化に成功した。こうして求めたアイスレンズの析出量はRGB画像に基づき求めた場合に比べ、誤差が40~80%軽減した。次に、凍土の近赤外スペクトルを解析したところ、近赤外スペクトルが温度低下に伴い上昇した。こうしたスペクトルの変化を不凍水量の減少によると考え、近赤外反射率と不凍水量の関係を検討したところ青粘土で0.5、黒ボク土で0.3、稲荷山黄土で0.7と負の相関が見られた。そこで、この関係に基づき不凍水量を反射率より推定することで,精度に課題が残るものの、凍土中の不凍水分布を視覚化することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に実験条件や解析手法が検討できていたこともあり、令和5年度は予定通りにカラム凍結・融解実験を進めることができ、定量的なデータを得ることができた。また、この際土中水の流れが凍結面の形状や塩の析出に及ぼす影響することが考えられ、これらの定量化に向けた実験系構築の準備を進めることもできた。数値解析に用いるHYDRUSとPhreeqCの結合コードHP1については、カラム実験の計算をある程度進めることができ、凍結にともなう水分の上層への集積や融解時の蒸発促進を再現することができた。これにより、凍結融解時の塩の解離や析出など、次年度以降の解析の準備を進めることができた。そして、新たに導入したハイパースペクトルカメラについては、精度や汎用化に課題が残るものの、アイスレンズ析出量と不凍水分布の可視化を期待通りに進めることができた。これらの成果により、次年度は計画通り各種より本格的な実験やパラメータの最適化などに研究を進展させることができる。 令和5年度は、ハイパースペクトルカメラを凍土の観察に適応する技術に関する論文と、今後の溶質分布の観測に資する論文がそれぞれ掲載に至った。また、各種実験の途中経過をまとめ国内学会で18件、国際会議で1件発表した。研究に関する打ち合わせや学会が対面に戻り、実験も順調に進んだことで、身の入った討論や議論ができた。これは、今後の継続的な検討に資すると考えられる。野外実験については、本年度は室内実験に多くの時間を使ったため、あまり進めることができず、圃場の土中の水分・圧力と地表面からの蒸発散量の測定準備をするに留まった。
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Strategy for Future Research Activity |
凍結にともなうナトリウム塩の移動・再分布と蒸発にともなう地表への析出について、塩の濃度や種類、土の初期水分や凍結温度、凍結融解サイクルの回数に焦点を絞り、数値解析との比較検討も進めつつ、カラム実験の回数を確保する。この際、凍土中の塩濃度および表面からの蒸発量の測定精度の向上に努める。また、土中水の流れが凍結面の形状や凍結にともなう土中の溶質移動に及ぼす影響を明らかにするために、異なるスケールのカラム実験を新たに構築し、地温分布の可視化や土中水流速と地温変化の関係などを検討する。一方、ハイパースペクトルカメラによる凍結面近傍の観察精度の向上については、実験系と解析系の見直しを行う。実験系については試料への放熱を抑えつつ光量を確保する方法を検討するとともに、実験系を低温室に構築する、顕微鏡を併用するなどによりノイズの軽減を目指す。解析系については、特定波長や平均波長、様々な波長帯を用いたNDIとの単回帰やSAM解析を再検討するとともに、主成分回帰に基づく可視化を試み、対象土質や温度帯による違いを検討することで汎用化を目指す。野外においても岩手大学の圃場で冬季には降水降雪の遮断により塩の析出を伴う凍結環境を再現できるか、可能な実験スケールを検討する。そして、これらの成果を論文として公開する準備をはじめるとともに、国内外の学会においても、成果の発表と研究の進展に必要な情報収集に努める。
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