2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22H02536
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中田 和人 筑波大学, 生命環境系, 教授 (80323244)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ミトコンドリアゲノム / 突然変異 / モデルマウス |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアゲノム(mtDNA)の突然変異が、ミトコンドリア病、糖尿病、神経変性疾患、不妊症、がん、老化などの遺伝的な原因になる可能性が示唆されているものの、「変異型mtDNA分子がどのようにしてこれほどまでに多様な病型を誘導するのか?」といった根源的な命題は未だに解明されていない。本研究では、変異型mtDNAを導入したマウスの作製と活用、さらには、他の遺伝子改変マウスとの交配を通して、変異型mtDNA分子種がいかにして多様な病態を誘導するのかを明らかにすることを目指している。 今年度は、ミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子にA2748G点突然変異(ヒトではA3302Gに相当)を有するmtDNA分子種を導入したマウスの作製・樹立に世界に先駆けて成功した。導入した変異型mtDNAが優位に蓄積した個体では、mtDNAから転写されたmRNAのスプライシングが異常となり、呼吸酵素複合体 I の活性低下から多臓器不全が誘導され、結果として、生後10ヶ月までに、軽度のミトコンドリア病、糖尿病と脂肪肝をともなう肝機能障害が誘導されることを突き止めた。また、mtDNAと核DNAとの連携破綻病理の存在を探索するために、欠失型mtDNAの蓄積によりミトコンドリアのATP産生機能が低下しているマウス、核DNAにコードされたミトコンドリアの分裂因子Drp1が血球系で機能しないマウス、そして今回新たにmt機能異常マウスとmt分裂不全マウスを掛け合わせて得られた機能と分裂の両方に異常があるマウスの3種類のマウスモデルを活用して、ミトコンドリアの機能と形態の異常が血球分化にどのような影響を及ぼすかを解析した。その結果、どちらの異常も、それぞれ単独で貧血の原因になるものの、それぞれ病態の質が異なっていること、ならびに、分裂不全に機能低下が加わると、病態が相加的に悪化することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、変異型mtDNA分子種を導入したマウス群の作製と活用を通して、変異型mtDNA分子種による病型形成機構を、1)変異型mtDNA分子種間の差異による制御、2)細胞・組織特異的な変異型mtDNA分子種の蓄積動態や感受性による制御、3)臓器間のクロストークによる制御、4)核ゲノム背景やストレス環境下での高次病原性制御という多階層病理として捉えることで、ミトコンドリアセントラルドグマの破綻による病態表現型の多様性を理解することを目指している。 今年度は、1)の目的に合致した新たな変異型mtDNA分子種を導入したマウスの樹立に成功し、変異型mtDNA分子種特異的な病態表現型誘導を確認することができた。さらに、核ゲノムにコードされたミトコンドリア分裂因子を破壊したモデルマウスを活用して、4)の目的に合致した核とミトコンドリアゲノム間の相互作用による病態発症(悪化)基盤の存在を確認することに成功した。これらのことから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
先端的な技術革新によって核ゲノムには人工的な突然変異を容易に導入できるようになってきているが、mtDNAには未だに人工的な突然変異を自由自在には導入できない状況にある。そこで我々は、体細胞突然変異によって生じた変異型mtDNA分子種を含有するマウス培養細胞を獲得し、そのミトコンドリアをマウスES細胞に細胞質移植することで突然変異型mtDNA分子種を導入したマウスの作製を行なっている。ミトコンドリア老化モデルマウスであるPolG-mut/mutマウスから作製した細胞質雑種細胞(サイブリッド)集団からA2689G変異型mtDNA(ヒトではA3243Gに相当:MELAS変異)含有されるサイブリッドを単離できているため、このサイブリッドのクローニングを繰り返すことで、A2689G変異型mtDNAを濃縮し、新たなモデルマウスの樹立につげたい。 また、既存の変異型mtDNA導入マウス群を活用して、変異型mtDNA分子種の蓄積やエネルギー代謝異常によって誘導される液性因子(ミトコンドリア病マーカー:GDF15やFGF21)の病型形成への関与を解明していきたい。さらに、今年度樹立したミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子にA2748G点突然変異(ヒトではA3302Gに相当)を有するmtDNA分子種を導入したマウスの変異型mtDNAの組織動態と老化依存的な病態変遷を継続観察することで、変異型mtDNAの病原性発揮の多様性を解明したい。
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