2022 Fiscal Year Annual Research Report
enhancer RNAを介した転写動態制御機構の解明
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22H02544
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
深谷 雄志 東京大学, 定量生命科学研究所, 准教授 (00786163)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | enhancer RNA / 転写 / エンハンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、転写調節領域であるエンハンサーから産生される非コードRNAであるenhancer RNA(eRNA)の分子機能について、転写ライブイメージングと定量画像解析を組み合わせた詳細な解析を行った。eRNAの産生量をコントロールしたレポーター遺伝子をシステマティックに作製し、ショウジョウバエのゲノムに導入した後、得られた初期胚を共焦点顕微鏡で解析した。従来のモデルでは、eRNAはエンハンサーを介した転写活性化に対して促進的に働くという考え方が主流であった。しかし、我々の解析の結果、エンハンサー領域からのeRNAの産生は、エンハンサーによる標的遺伝子からの転写バースト誘導に対して、抑制的に働くという予想外の知見が得られた。本機構のより詳細な分子メカニズムを解析するために、モデルとして用いたエンハンサーに結合することがすでに知られているDorsalと呼ばれる転写因子にGFPをノックインしたゲノム編集系統を新たに作製し、超解像顕微鏡を用いた解析を進めた。その結果、エンハンサー領域からのeRNAの産生は、転写因子のエンハンサーからの解離を引き起こしていることが新たに明らかになった。すなわちeRNA産生時にRNAポリメラーゼIIがエンハンサーを通過する際に、転写因子の結合を物理的に阻害している可能性が示唆された。一連のレポーター解析によって明らかとなった知見をもとに内在遺伝子領域を改変したところ、エンハンサー近傍に新たにeRNAの転写開始点を獲得することで、実際に標的遺伝子からの転写量が抑制される様子が観察された。以上の結果を踏まえると、非コード領域における新たな転写開始点の獲得は、エンハンサーの活性を変化させる進化的な原動力となることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
様々なレポーター遺伝子を作製し、システマティックな定量画像解析を行うことで、eRNA産生に伴う標的遺伝子からの転写バーストの抑制という全く新たなメカニズムを世界に先駆けて明らかにすることに成功した。さらに、ゲノム編集や超解像顕微鏡解析を組み合わせることで、エンハンサー上からの転写因子の解離という分子メカニズムを明にすることに成功した。本研究成果は、これまでの「eRNAは転写活性化に働く」という画一的なモデルの見直しを迫る、重要な知見である。これらの研究内容は原著論文としてNature Communications誌に発表した(Hamamoto et al., 2023)。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、eRNAの持つ予想外の機能を明らかにすることができた。通常生体内で生み出されるeRNAの多くは3'末端にpolyA鎖を持たず、細胞内で直ぐに分解されてしまう。来年度は、ショウジョウバエ初期胚におけるRNA分解に着目し、RNA代謝というプロセスがどのように新生mRNAの転写に寄与しているのかについて解析を進めることで、より包括的な理解を得ることを目指す。
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