2023 Fiscal Year Annual Research Report
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22H02628
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 郁夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (30600548)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 進化 / NOTCH2NL / 脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ヒト固有遺伝子NOTCH2NLが大脳皮質発生において神経幹細胞を長期間維持し、脳の細胞数を増やす分子メカニズムについて取り組んできた。前年度までにNOTCH2NLの細胞内相互作用因子を同定し、それを手がかりに、NOTCH2NLが多くの膜タンパク質のフォールディングプロセスを制御することを明らかにした。特に、NOTCH2NLの5番目のEGFリピートにおける糖鎖修飾状態が分子活性に大きな影響を与える。本年度は、NOTCH2NLの糖鎖状態を決定するのに重要なアミノ酸残基の多型についての集団遺伝学的および進化生物学的解析を行った。そもそもNOTCH2NLのように最近重複した遺伝子について、次世代シーケンサーの短鎖配列データを用いて、パラログ遺伝子座どうし、また対立アリルを厳密に区別する解析を行うことは極めて難しい。しかし、研究室内で新たに長鎖トランスクリプトーム解析を行ったことに加え、Human pangenome referenceの長鎖配列データを用いて解析したところ、NOTCH2NL遺伝子についての詳細な進化ヒストリーを解明することができた。チンパンジーとの分岐後のヒト進化系統において、1コピーのNOTCH2NLが誕生した後にさらに複数回の重複が起き、4コピーのNOTCH2NLが誕生した。その後、NOTCH2NLAおよびB遺伝子座は互いに遺伝子転換を繰り返しながらも低機能型NOTCH2NLとして一定の配列を維持していた。100万年程度前に高機能型NOTCH2NLBアリルが出現し現代人とネアンデルタール人に引き継がれた。現代人集団においては出アフリカの直前から急速に高機能型アリルが集団中に広がっており、NOTCH2NLの活性が高いことが人類集団に有利に働いていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究によりNOTCH2NLの細胞内における分子機能についてはかなり詳細なメカニズムが解明されつつあり、この部分については当初の研究計画を概ね完了することができた。加えて、長鎖ゲノム配列データの解析により、本研究計画を立案した時点では想定できなかったほど高精度な結果を得ることができた。これを土台としたNOTCH2NLの多型パターンと各種疾患との相関関係の解析を進めており、脳腫瘍についてはすでに重要な知見が得られ、それ以外の疾患については近い将来には完了する見込みである。また、個体レベルの解析を行うために進めてきた、ヒトNOTCH2NL遺伝子を挿入した強制発現マウス系統をを用いた解析であるが、掛け合わせが完了し、現在基礎的な組織解析等により脳発生異常の可能性を検証している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの解析により、NOTCH2NLの進化的経緯やヒト神経幹細胞における分子メカニズムを明らかにすることができた。今後はNOTCH2NLにおいて新たに同定することができた多型について、各種疾患との関連解析を進める。加えて、正常な人類集団におけるNOTCH2NL遺伝子の機能を理解するため、UKバイオバンクや東北メガバンク等の大規模コホート研究データを活用することにより、NOTCH2NLの多型と脳形態等の関連解析を進める。また、NOTCH2NL強制発現マウスを用いた個体レベルでの解析を進め、これまでに解明してきた分子から細胞レベルの機能解析に加え、組織から個体レベルでの表現形解析を行う。これらの解析結果をまとめた論文を投稿し公表することまで視野に含める。
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Research Products
(6 results)