2022 Fiscal Year Annual Research Report
野外の変動光下の光合成への光化学系Iのみを駆動する遠赤光の多面的寄与
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22H02640
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺島 一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40211388)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | カロチノイドシフト / ΔpH / 循環的電子伝達系 |
Outline of Annual Research Achievements |
われわれは個葉レベルの非破壊測定によって、強光と弱光とが繰り返す変動光下で、遠赤色光(FR光)が存在しないとPSIが容易に損傷されること、FR光が、弱光から強光への移行時にPSIを光損傷から守り、弱光下では光合成速度を高めることを明らかにした。本研究では、次の仮説をin vitro測定を含む種々の測定により実証する。 仮説1: 弱光→強光移行時、FR光によってPSIの循環的電子伝達系が駆動され、H+がチラコイド膜内腔に汲み込まれる。 内腔のpHの低下が光合成調節によりシトクロムb/f複合体活性を抑え、PSIへの電子の流れおよび活性酸素生成を抑制する。 仮説2: 強光→弱光移行時、FR光は、強光下ではたらく過剰エネルギー熱散逸機構の停止を速め、ATP合成に必須なプロトン駆動力保持に寄与する。 本年度は以下のような成果が得られた。 515 nmにおいて見られるカロチノイドシフトによる吸収変化によって、生葉のチラコイド膜のエネルギー状態を推定する方法が開発され、その後よく用いられている。この方法により、プロトン駆動力の大きさと、ΔpHと膜電位(Ψ)との寄与率が推定されている。しかし、FR光が存在する場合には、この方法の適用は難しかった。各種イオノフォアを生葉に与えて、FR光がカロチノイドシフトに及ぼす効果を解析したが、in vitroの詳しい解析を行わなければ結果の解釈は不可能であると判断した。 まず、パルス変調蛍光計を改造して、9ーアミノアクリジンによるΔpHのin vitro測定系を構築した。単離チラコイド膜系を用いて、プロトン駆動力への光化学系Iの循環的電子伝達系の寄与を測定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
代表者は2022年度で東京大学理学系研究科を定年退職した。2023年度以降は農学生命科学研究科の生態調和農学機構に研究の場を得たが、研究室の片付けや引越しなどに思っていた以上の時間を取られ、2023年になってからは実験がほとんどできなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
1)変動光下のPSI光阻害は、弱光→強光移行初期に起こるはずである。シロイヌナズナ、タバコ、イネの野生型とPGR5/PGRL1系やNDH変異体のシロイヌナズナ野生型および各種変異体から単離した無傷葉緑体を穏やかに低張処理して得られたチラコイド膜を用いて、励起光(± FR光)消灯後の515 nmの吸収変化を測定する。同時に、2022年度にパルス変調蛍光計を改造して作成した測定装置によってΔpH、pH電極によって外液のpH、K+電極によって外液のK+濃度をモニターする。膜電位の蛍光指示薬が市販されているのでそれらも試用する。515 nmの吸収変化トレースとこれらの計測結果とを比較する。特に励起光およびFR光の強さやK+濃度に注意して行う。シロイヌナズナ以外の植物種の変異体も入手して解析する。 2)ヒマワリやその他の植物に、赤色LEDで変動光(±FR光)を与えながら、PSII電子伝達速度、PSIIアンテナの熱散逸能、P700の酸化還元状態を連続測定する。
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Research Products
(9 results)