2023 Fiscal Year Annual Research Report
トマトの胚形成における胚と親組織のコミュニケーション機構の研究
Project/Area Number |
22H02645
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石黒 澄衛 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50260039)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丹羽 智子 中部大学, 応用生物学部, 客員研究員 (20835839)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ジャスモン酸 / トマト / 胚形成 / 組織分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、ゲノム編集で作出したジャスモン酸合成遺伝子SlOPR3の欠損トマトの解析を進めた。slopr3のヘテロ株は1/4の割合で変異遺伝子をホモに持つ異常種子を形成する。その種子中の胚の構造を詳細に解析したところ、球状胚の形成まではほぼ正常に進行するが、そこで発達が停止し、心臓型胚以降の構造を作ることはなかった。SlOPR3遺伝子のプロモーターにGFPを連結してトマトに遺伝子導入すると初期胚の時期を中心に胚での発現が観察された。以上の結果から、胚自身がジャスモン酸を合成すること、そのジャスモン酸が胚の初期発生に重要であること、さらに、それぞれの胚が合成するジャスモン酸はその胚のみに作用し、同じ果実中の他の胚の発達を促進することはないことが明らかになった。ただし、ジャスモン酸受容体を欠損するslcoi1のホモ胚の発達は正常に進行することから、ジャスモン酸はいったん胚以外の組織で受容される必要がある。 slopr3をホモに持つ異常胚の構造を詳細に調べるため、マーカー遺伝子の利用を試みた。表皮細胞のマーカーであるAtML1-GFPの発現は球状胚期のslopr3異常胚の表層の細胞のみで観察され、異常胚においても表皮のアイデンティティの獲得は正常であることが確認できた。一方、胚内部の細胞の極性や維管束組織の発達の指標となるAtPIN1-GFPの発現を観察したところ、正常な球状胚では一定の細胞極性の確立や維管束予定組織での発現増大が観察されたが、異常胚ではそのいずれも観察することはできなかった。以上の結果から、ジャスモン酸合成ができない胚は表皮のアイデンティティは獲得できるものの、胚全体の極性が確立される段階で決定的な異常が生じていると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SlOPR3-GFP遺伝子を利用したこの遺伝子の発現解析で期待以上の明瞭なデータが得られたこと、AtML1-GFPやAtPIN1-GFPを用いた解析でも明瞭な結果が得られたことから進捗状況としては順調である。シロイヌナズナよりも大型で細胞層が多いトマトの種子でこれらの遺伝子の発現を観察するにはいろいろな技術的工夫が必要であり、それを確立できたことが大きい。加えて、種子や胚を用いたトランスクリプトーム解析やSlOPR3の誘導発現系を利用したslopr3のオンデマンド相補株の作出にも着手しており、それぞれ次年度の成果として見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画段階で予想した以上に胚形成の異常が発達の初期から始まっていることが明らかになってきた。この段階はシロイヌナズナでも十分に理解が進んでいない段階であり、トマトに限らないより一般的な初期胚発生の問題として位置付けられる可能性がある。ジャスモン酸(あるいはそれに応答して生成する二次成長調節物質)が胚発生をどのように制御しているのか、鍵となる遺伝子は何か、引き続き解析を進めたい。
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