2023 Fiscal Year Annual Research Report
シロアリの社会性進化の新理論:遺伝子重複による新たな発現調節の獲得機構の解明
Project/Area Number |
22H02672
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
前川 清人 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (20345557)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 徹 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (00332594)
重信 秀治 基礎生物学研究所, 超階層生物学センター, 教授 (30399555)
林 良信 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 講師 (70626803)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / カースト / 遺伝子重複 / RNA-seq / カースト分化 / ゲノムアセンブリ |
Outline of Annual Research Achievements |
代表的な真社会性昆虫であるシロアリでは,カースト間で特異的に発現する遺伝子(=ソシオ遺伝子)は基本的に多重遺伝子群であり,遺伝子重複と社会性進化には密接な関係がある可能性がある。本研究は,これを新たな進化理論にすることを目標とする。まず,昨年度に取得したネバダオオシロアリZootermopsis nevadensisの日本産個体群のデータを解析し,コンティグ数546,コンティグN50が5.9Mに達するゲノムアセンブリを構築した。本種の北米産の既知ゲノム(コンティグ数:64,771,コンティグN50:22.8 kb)より高品質で,推定された19,061遺伝子のBUSCO (5.2.2) insecta値はC: 99.9%であり,理想的なゲノムリソースが整ったと考えられる。続いて,各カースト(生殖虫,兵隊,ワーカー)の性別と部位別(頭部と胸腹部)のRNA-seqリードをゲノムにマッピングし,各遺伝子の発現データを得た。ヤマトシロアリとナタールオオキノコシロアリの既知のゲノム情報を使って,シロアリで共通する単一遺伝子と重複遺伝子を同定し,各遺伝子の発現パターン(tauスコア)を調べた。その結果,ネバダオオシロアリにおいても,重複遺伝子の方が単一遺伝子よりもカースト特異的に発現する(tauスコアが有意に高い)ことが明らかになった。現在,ヤマトシロアリとネバダオオシロアリのソシオ遺伝子の発現制御を担う共通の転写因子を探索している。 さらに本年度は,先進ゲノム支援のサポートを受け,派生的な単系統群(現存種の7割を含む)である高等シロアリに属するタカサゴシロアリNasutitermes takasagoensis(1.68 Gb)を対象に,ロングリードの新規ゲノムシーケンスとRNA-seqを行った。現在,カバレッジ約26x(39.6 Gb)のシーケンスが完了し,遺伝子モデルの作製を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主材料として選定したヤマトシロアリとネバダオオシロアリは,祖先的な下等シロアリに属しており,シロアリ系統内でのソシオ遺伝子の共通性や固有性の解明には,派生的な単系統群(現存種の7割を含む)である高等シロアリ(シロアリ科)の情報が必須になる。本年度も「先進ゲノム支援」のサポートを受けることができたため,シロアリ科に属するタカサゴシロアリのゲノムとトランスクリプトームのシーケンスデータを取得することができた。これにより,シロアリで重複が予測される重要なソシオ遺伝子のリストアップや,発現を制御する共通の転写因子の探索などをスムーズに進行させることができると考えられる。また,ヤマトシロアリのゲノム情報(Shigenobu et al., 2022)に基づいて,重要なソシオ遺伝子の1つであるtakeout遺伝子の発現や機能を明らかにした(Fujiwara et al., 2023)。さらに,本種の効率的なRNAi法(Suzuki et al., 2023)や,性決定に関係する遺伝子のユニークな特徴(Fujiwara et al., 2024)を報告することができた。したがって,研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の「先進ゲノム支援」のサポートを受け,タカサゴシロアリのロングリードのゲノムシーケンスが完了し,カースト間のRNA-seqのショートリードを取得した。本種の予想ゲノムサイズは1.68 Gbであり,ゲノムが解読されたシロアリ種の中で最大である。まず本年度は,これらのデータの解析を進め,利用できるリソースを整えることを目指す。遺伝子モデルが完成したのち,重複遺伝子と単一遺伝子を特定し,カースト間の発現パターンを解析する。現時点では本種の飼育個体がいないため,RNA-seqの検証のためには野外から個体を採集し,リアルタイム定量PCRを行う必要もある。 主材料であるヤマトシロアリとネバダオオシロアリでは,重複遺伝子と単一遺伝子のリストアップは完了したため,カースト間で発現差が顕著な(tauスコアの大きい)ソシオ遺伝子を特定し,in situハイブリダイゼーションにより発現部位を解析する。さらに,ネバダオオシロアリでは,カースト間のRNA-seqデータを活用し,ソシオ遺伝子の各パラログのシス制御領域から予測される転写因子の候補を得ている。これらの候補遺伝子のRNAiやin situハイブリダイゼーションによる発現部位の解析を行い,注目するソシオ遺伝子との相互作用の有無を明らかにする。重要なソシオ遺伝子は,タカサゴシロアリやシロアリの姉妹群であるキゴキブリからもホモログを特定して分子系統解析を遂行し,遺伝子重複の時期を把握して,各枝で正の選択が検出されるかを検討する。
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