2022 Fiscal Year Annual Research Report
Screening of biomarkers for neurogenesis using food-derived neurotrophic compounds
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22H02781
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | トランスポーター / 神経新生 / エルゴチオネイン / バイオマーカー / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経変性疾患では神経細胞が脱落するため、神経細胞を再生し脱落分を補う試みは病態改善に有効と考えられる。本研究は、血液中の細胞外小胞(EVs)を用い神経の再生と認知機能の向上を追跡可能なバイオマーカーの探索、神経変性疾患モデルに及ぼす食物由来抗酸化物質エルゴチオネイン(ERGO)による神経再生と病態改善効果の解明、ERGOの標的分子の解明の3つを研究目的とした。キノコ抽出物を用い作製したエルゴチオネイン(ERGO)5 mgを含む錠剤、または偽薬を、1日1回12週間経口摂取した健常人より採取した血清からEVsを単離し、ERGOの作用分子である神経栄養因子NT-5とその受容体TrkBおよびその活性化体であるリン酸化TrkB (p-TrkB)、脳神経細胞由来EVsマーカーであるSNAP25、EVsマーカーCD63の発現量をwestern blotで測定した。ERGO摂取群では0週と比較して8、12週目において、血清EVsにおけるTrkBで補正したp-TrkB発現量(p-TrkB/TrkB比)が有意に高かった。12週目におけるp-TrkB/TrkBは、偽薬群に比べても有意に高かった。一方、TrkB/CD63、NT-5/CD63、SNAP25/CD63は、両群で差がなかった。血清由来EVsにおけるp-TrkB/TrkB比は、血清中および血液中ERGO濃度と正の相関を示した一方、他のタンパク質比は示さなかった。認知機能検査Cognitraxで測定された総合記憶力、言語記憶力、処理速度、視覚記憶力、認知柔軟性、実行機能、ワーキングメモリー(スコアが高いほど高い値を示す)はp-TrkB/TrkB比と正の相関を、反応時間、総合注意力(スコアが低いほど高い値)は負の相関を示した。以上の結果は、血清EVsにおけるTrkBのリン酸化がERGOによる認知機能改善効果を定量的に反映することを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の一つである、血液中細胞外小胞(EVs)を用いた神経の再生と認知機能向上を追跡可能なバイオマーカーの探索に関して、本年度は、健常人において血清EVsにおけるTrkBのリン酸化がERGOの血中濃度やERGOによる認知機能向上作用を反映することを示し、バイオマーカーとしての可能性を示すことができた。一方で現在単離しているEVsは、脳以外の臓器由来のものも含むと考えられるため、今後、脳由来EVsを単離する必要がある。このため現在、SNAP25に対する抗体と、新生ニューロンに発現するPSA-NCAMに対する抗体でEVsを免疫沈降させ、脳由来EVsの精製を試みている。予備的検討において、それぞれの免疫沈降EVsにおいてもp-TrkBとTrkBの発現が確認されたことから、得られたEVsが脳由来のものを含むことが示唆されつつある。また、実験動物を用いたバイオマーカーの実証とERGOによる神経変性疾患モデル動物に及ぼす神経再生と病態改善効果の実証のため、本年度はTrkBをコードする遺伝子を搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV- flag-TrkB。対照群としてAAV-lacZ)を構築した。得られたAAVをマウス脳内にinjectionしたところ、脳組織においてflag-TrkBの発現がwestern blotで認められたことから、得られたAAVがマウスin vivoにおいて機能することが確認できた。また、神経変性疾患モデル確立のため、アルツハイマー病モデルマウス(App遺伝子アミロイドβ領域にヒト遺伝子変異を挿入したC57BL/6-App<tm3(NL-G-F)Tcs>)の交配飼育を進めるとともに、予備的検討として離乳後よりERGOの経口投与を開始した。今後、神経新生、神経成熟、行動薬理を評価することで、ERGOによる神経新生と病態改善を解明する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の第一の目的であるEVsを用いた神経の再生と認知機能向上を追跡可能なバイオマーカー探索においては、マウスを用いてERGOを経口投与後の血清由来EVsに含まれるリン酸化TrkBならびに他のタンパク質と、神経新生や記憶学習効果との関係を検討する。脳由来EVs精製のため、マーカータンパク質に対する抗体を用いた免疫沈降を試みる。第二の目的である神経変性疾患モデル動物に及ぼすERGOによる神経再生と病態改善の解明においては、同様な検討をアルツハイマー病モデルマウスにおいても実施し、ERGO投与による神経新生および神経成熟の促進を示すとともに、行動薬理試験によってERGO投与による認知機能改善効果を検討する。治療効果のメカニズム解明を目指し、脳海馬におけるアミロイドβの蓄積、マーカータンパク質の発現変化等を解析する。当該マウスにおいても血清由来EVsを単離し、リン酸化TrkBならびに他のタンパク質と、神経新生、記憶学習効果との関係を検討する。第三の目的であるERGOの標的分子の解明においては、ERGOが臨床濃度で阻害するN-メチル化酵素の活性に及ぼすERGOの阻害定数、阻害様式を、遺伝子組換えタンパク質と脳組織homogenateを用いて評価することで、ERGOの標的分子の一つであることを生化学的に示す。ERGOによる神経新生促進にはミクログリアのM2への分化が関与すると考えられる。そこで、細胞株BV-2にN-メチル化酵素遺伝子を安定発現させた系、酵素を内因的に発現するマウス初代培養ミクログリアの系を用いて、酵素の導入や阻害によるM1/M2分化への影響を検討することで、ミクログリアの分化に及ぼす当該酵素の役割を示す。当該酵素阻害薬やshRNAを搭載したAAVによるミクログリアのM1/M2分化と神経新生、記憶学習に及ぼす影響を検討することで、ERGOの標的分子としての役割を解明する。
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Research Products
(10 results)