2022 Fiscal Year Annual Research Report
放射線治療に有用なアブスコパル効果の発現機序解明と応用
Project/Area Number |
22H03012
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
権田 幸祐 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80375435)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多田 寛 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (50436127)
北村 成史 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (50624912)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 放射線治療 / アブスコパル効果 / がん / 免役 / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線治療のアブスコパル効果は、研究が停滞していたが、がん免疫研究の進展で再注目されてきた。その結果、放射線照射によるがん細胞傷害が、がん抗原の露出量を増やし、これにより免疫応答を介してアブスコパル効果の発現が促進されることが分かってきた。以上の研究では、腫瘍径の値や腫瘍の一部の組織切片データを用いて解析が行われた。そのためアブスコパル効果を発現する腫瘍を、分子から組織全体に渡り統合的に計測し解析する技術に欠けており、腫瘍内で不均一に起こるアブスコパル効果の実態を正しく評価することが難しかった。本研究では、蛍光計測と金ナノ粒子を用いたX線CT計測を行い、アブスコパル効果発現の鍵となる「腫瘍微小環境」や「がん免疫応答」の経時変化に注目しつつ、両イメージングデータを統合的に解析し、アブスコパル効果発現の理解を深めるとともに、その応用としてこの効果の発現を促進・最適化させる治療法開発を試みる。 以上の研究目的を実現するため、血管新生阻害剤を用いたアブスコパル効果の発現を誘導する放射線治療モデルの構築を試みた。この実験では、マウスの足背に1次腫瘍として癌細胞を移植し、2日後に同マウスの腰に同じ癌細胞を移植 (2次腫瘍)した。また治療条件は、コントロール群、放射線照射群 (1次腫瘍のみ)、血管新生阻害剤投与群、併用療法群の4群で行った。その結果、腫瘍径の大きさに関して治療効果データに有意差を示す実験系の確立に成功した。またこれらの治療群の間で、2次腫瘍におけるCD8陽性T細胞(キラーT細胞)の浸潤数に差があることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究実施前の計画として、以下のことを交付申請の際記載し目標としていた。 本年度は、血管新生阻害剤を用いたアブスコパル効果の発現を誘導する放射線治療モデルの構築を行う。これまで予備的にはこのモデルの構築に成功しているが、治療効果データに有意差を示すモデルとしては確立していなかった。実験方法として、マウスの消化器系がん細胞を野生型マウスの足背に1次腫瘍として移植し (0日と定義)、2日後に同マウスの腰にがん細胞を移植 (2次腫瘍)する。その後、10日後に1次腫瘍へX線を照射し、約3週間後まで血管新生阻害剤を投与する。このモデルにおいて、コントロール群、放射線照射群 (1次腫瘍のみ)、血管新生阻害剤投与群、併用療法群の4群間での比較を行う。比較項目としては、1次および2次腫瘍における瘍縮小効果、2次腫瘍におけるCD8陽性T細胞の浸潤数、などを細胞・組織レベルで詳細に解析する。以上の解析によって、各治療群のデータにおいて期待された有意差が得られれば、「放射線治療によってがん抗原の露出量が増え、CD8陽性T細胞によるがん細胞傷害効果が亢進したこと」や「血管新生阻害剤よって腫瘍微小環境の変化が誘導され、CD8陽性T細胞の腫瘍組織内浸潤数が増えたこと」が示唆される。そして両者の相乗効果によって結果的にアブスコパル効果が発現し、放射線を照射していない2次腫瘍においても腫瘍縮小効果が認められるモデルの確立に繋がると期待した。 以上の実験計画の結果、治療条件が異なる4群であるコントロール群、放射線照射群 (1次腫瘍のみ)、血管新生阻害剤投与群、併用療法群おいて、腫瘍径の大きさに関して治療効果データに有意差を示す実験系の確立に成功した。またこれらの治療群の間で、2次腫瘍におけるCD8陽性T細胞(キラーT細胞)の浸潤数に差があることを見出した。以上の結果から、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
治療効果のさらなる詳細な解析を行なう。具体的には、各治療群間における腫瘍微小環境の変化を評価するため、「血液中のCD8陽性T細胞のがん細胞傷害効果」、「2次腫瘍の腫瘍血管面積密度の比較」、「2次腫瘍の腫瘍血管のペリサイト被覆率の比較」、「2次腫瘍の腫瘍血管面積密度あたりのCD8陽性T細胞の浸潤数」などの検討を行う。さらに腫瘍血管のX線CTイメージングとその解析にも着手予定である。 以上の解析によって、各治療群のデータにおいて期待された有意差が得られれば、アブスコパル効果発現のメカニズムの理解が深まると期待される。
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