2023 Fiscal Year Annual Research Report
難治性急性リンパ性白血病に対するプレシジョン・メディシンを目指した多分野融合研究
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22H03037
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
犬飼 岳史 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30293450)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大城 浩子 山梨大学, 大学院総合研究部, 医学研究員 (50377537)
合井 久美子 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (70324192)
赤羽 弘資 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (90377531)
玉井 望雅 山梨大学, 大学院総合研究部, 臨床助教 (90747453)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 急性リンパ性白血病 / 薬剤感受性 / ゲノム解析 / ゲノム編集技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、難治性の急性リンパ性白血病(ALL)症例から樹立された多数の細胞株を活用し、薬剤感受性と関連するゲノム情報を同定する取り組みである。各株の多様な化学療法剤・低分子化合物・細胞傷害因子の感受性とゲノム情報をデータベース化し、難治性白血病における薬剤感受性モデルとして成果をあげてきた。加えてゲノム編集技術を活用し、薬剤耐性に関与するゲノム異常を内因性遺伝子に導入し、薬剤耐性のモデル系を構築することにも努めてきた。 本年度は、主要な治療薬であるアスパラギナーゼに対する感受性において、重要なバイオマーカーであるアスパラギン合成酵素遺伝子ASNSのメチル化状態を、多数検体で迅速かつ正確に評価できるアッセイ系を樹立した(Epigenetics. 2023;18:2268814)。今回の成果は、多数の細胞株および臨床検体において、HPLCを応用したアッセイ系が次世代シークエンス法による結果と一致することを明らかにしたものである。本アッセイ系は、アスパラギナーゼの感受性の予測を可能にして、個別化治療への道を拓く成果が期待される。 遺伝子に特定の変異を導入する手法としては、CRISPR/Cas9による相同組み換えがあるが、非相同末端接合による遺伝子の機能喪失が、より高頻度で導入されてしまう欠点があった。これを克服する手法として、Cas9と逆転写酵素の融合タンパクを用いるprime editing技術が開発された。そこで、ALLの再発症例におけるTP53遺伝子で最も高頻度で検出されるR248Q変異を、ヒトのALL細胞株にprime editingによって導入を試みた(Cancer Sci. 2024 Mar 28)。その結果、R248Q変異が高率に導入された一方で、複数のパターンの付加的な変異も導入されており、そのエラーの原因を特定し改良点を明らかにすることに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の論文成果としては、前述のような2論文が年度内に発刊された。また、Philadelphia染色体陽性(Ph+) ALLでは、白血病細胞がラミニンなどの間葉組織に接着することが化学療法に対する耐性の獲得に寄与しているが、Ph+ALL細胞上の細胞接着因子の発現がBCR::ABL1融合タンパクの活性に依存しており、TKIによってBCR::ABL1融合タンパクの活性を阻害すると細胞接着因子の発現が低下してPh+ALL細胞のラミニンへの接着が減弱することを明らかしている。この解析結果は、Ph+ALLが通常の化学療法に対して耐性を示す機序と、TKIを併用した化学療法の有用性の機序の一端を明らかにする研究成果である。加えて、MYC遺伝子とその近傍にあるスーパーエンハンサー活性を持つ領域の増幅が、ALL細胞の株化に寄与することを明らかにして、論文成果をrevise中である。さらに、前年度にB前駆細胞性ALL株100株とT-ALL株21株の合計121株を対象にして実施したRNA-seqの解析を進め、遺伝子発現のプロファイリングから染色体転座の型と一致したクラスタリングが出来ており、これまで株化が知られていない既知の融合遺伝子を持つ細胞株も確認されている。「胃がんのアスパラギナーゼ感受性」に関しては、胃がんにおいてASNS遺伝子が高メチル状態となる要因を同定することに成功しており、現在、論文化を進めている。「ゲノム編集による薬剤耐性遺伝子変異モデル」については、base editing手法によってBCR::ABL1融合遺伝子のT315I変異とTP53遺伝子のI125M変異をヒト白血病細胞株に導入することにそれぞれ成功して、論文化を進めている。細胞株バンクを用いた新規薬剤に対するスクリーニングについては、スウェーデンのカロリンスカ研究所との共同研究として解析が進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、小児ALL治療において基本となる化学療法剤のそれぞれの感受性を規定するゲノム情報を、白血病細胞株をモデル系として、遺伝子多型・変異・エピゲノム修飾の3つの視点から探索し、その関連性を臨床検体の公開データベースとゲノム編集技術を活用して検証して、信頼度の高い感受性バイオマーカーを同定することで、将来的な個別化治療への道を拓くことを目指す。本研究は、薬剤感受性のゲノムマーカーを、圧倒的な規模の白血病細胞株バンクを活用し薬物動態に基づく感受性を評価して探索するという、類のない取り組みである。 今後は、実施した全ALL細胞株におけるRNAseq解析のデータベースを整備して、各種の薬剤感受性における遺伝子多型・変異・エピゲノム修飾と、遺伝子プロファイリングとの関連性の解析を進める。また、薬剤感受性に関しては、薬剤の濃度勾配に一定時間暴露する従来からの評価方法に加えて、治療量の薬剤を臨床で投与した際の薬物動態を模した暴露条件で評価を行うことで、臨床に直結する研究成果を目指す。加えて、新規の分子標的薬や抗体製剤に対する感受性解析も進めて、感受性を規定するバイオマーカーとなるゲノム情報を同定することを目指す。また、前年度からの「胃がんのアスパラギナーゼ感受性」、「スーパーエンハンサーの機能解析」、「ゲノム編集による薬剤耐性遺伝子変異モデル」の研究を継続・発展させていく予定である。 さらに、「網羅型研究」として、一塩基多型・遺伝子変異・メチル化についてゲノム情報を網羅的に解析して薬剤ごとに解析を進めて、薬剤感受性マーカーの候補となるゲノム情報を検討する。得られた候補については、ゲノム編集技術を用いて、その関連性の直接的な検証を進めていく。同時に、「探索型研究」として、化合物及びCRISPRの各ライブラリーを用いて、新たな治療薬及び薬剤感受性遺伝子のスクリーニングを推進する予定である。
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[Presentation] BCP-ALL細胞株のinotuzumab ozogamicin感受性におけるCD22陽性率の意義2023
Author(s)
笠井 慎, 赤羽 弘資, 玉井 望雅, 加賀美 恵子, 小松 千亜紀, 清河 信敬, Nguyen TT, 後藤 裕明, 峯岸 正好, 稲葉 俊哉, 岩本 彰太郎, 合井 久美子, 犬飼 岳史
Organizer
第85回日本血液学会学術集会
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