2023 Fiscal Year Annual Research Report
小胞輸送病とライソゾーム病を包括する新しい疾患概念の確立と治療開発への基盤研究
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22H03046
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
大友 孝信 川崎医科大学, 医学部, 教授 (20742589)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ライソゾーム病 / オートファジー / エンドサイトーシス / ライソゾーム酸性環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
ライソゾームで物質の代謝が行われるためには、反応の場であるライソゾームへ分解される基質やライソゾーム酵素が運ばれ、ライソゾーム内の酸性環境が保たれて適切に加水分解反応が行われる必要がある。ライソゾーム病はライソゾーム酵素の遺伝的な欠損(遺伝子変異)等による希少難病であるが、ライソゾームへ基質を輸送するための細胞内小胞輸送系路の破綻も同様な症状を引き起こすことが示唆されている。本研究では酵素欠損と小胞輸送欠損の共通点を探りながら、ライソゾームを中心とする分解系を包括的に理解し、治療法の開発に資する新たな知見を得ることを目標としている。 我々は、コレステロール代謝異常のライソゾーム病においてライソゾームの酸性維持機構のキャパシティが低下することを発見した。それにより塩基性物質の負荷に応じてライソゾームの酸性環境が悪化し、オートファジーの分解能力が落ちることが明らかとなった。この効果はライソゾーム病ではない野生型細胞にコレステロールを負荷した際にも観察されたため、高脂血症のコントロールがライソゾーム機能の維持にも有用である可能性が示唆された。 また、我々は、小胞輸送を制御する新たな小胞輸送蛋白質複合体を同定し、それらが受容体を介在しないエンドサイトーシス(マクロピノサイトーシス)において重要な働きをしていることを突き止めた。本発見は、マクロピノサイトーシスと受容体介在性エンドサイトーシスの経路が早期には合流していないことをも示唆する。 以上、本年度は2本の論文報告を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ライソゾーム機能や細胞内小胞輸送を評価するためのモデル細胞は、CRISPR/Cas9を用いて容易に作製できる環境が整っている。我々はある程度の種類の細胞株をストックしており、今後もさまざまな評価に利用することが可能である。これらのリソースを用い、ライソゾーム病のモデル細胞を網羅的に比較することで、予想外にもコレステロールの代謝異常とライソゾームの酸性機能維持という新しいコネクションを明らかにすることが出来た。また、小胞輸送複合体(テザリング複合体)関しては、哺乳類細胞で既に同定され機能が明らかになっているHOPSやCORVETに加え、我々はそれらのハイブリッドタイプの複合体を2つ同定したが、複合体の一部の部品が欠損するモデル細胞間を比較することで機能の一部をあぶり出すことが出来た。これら2つの発見はライソゾーム分解系の研究領域において発展性をもつテーマである。 一方で、当初計画していたミトコンドリアやペルオキシソームの機能については、ライソゾーム病モデル細胞の網羅的な比較においてはあぶり出すことが出来なかった。我々のモデル細胞は不死化細胞であるため、細胞の基本的な生存に必要な機能は保たれているのかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
ライソゾームの酸性環境の維持機構については、ライソゾームのプロトンポンプやイオンチャンネルの量や局在に注目し、その詳細なメカニズム解析を行う。特に高コレステロールがライソゾームの酸性機能のキャパシティを低下させるという知見は生活習慣病などとも関係が深く、臨床的な意義についても検討していきたい。 細胞内小胞輸送を制御する複合体に関しては、それらの成り立ち(形成過程)は不明であり、一部新しいノックアウト細胞を作製し検討中である。また、複合体の機能解析については国際共同研究を開始する予定である。エンドサイトーシス、エクソサイトーシス、リサイクリングを含めた幅広い細胞内小胞輸送に注目し、その役割を探っていく。
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