2023 Fiscal Year Annual Research Report
薬物事犯者の地域生活定着を支える司法分野と保健師の連携・協働体制構築
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22H03416
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
大西 眞由美 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 教授 (60315687)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 涼子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(保健学科), 准教授 (30437826)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 社会的包摂 / 地域生活定着支援 / 矯正施設 |
Outline of Annual Research Achievements |
【矯正施設入所経験者に対する地域社会への再統合支援に係る連携会議】 「司法と保健の支援窓口」の実装モデル運用に向け、長崎県再犯防止推進ネットワーク協議会委員の有志によって、連携会議を開始した。また、矯正施設入所経験者等への支援経験を有する自治体保健師への聞き取りによって、司法・福祉・医療との連携・協働課題を検討した。 【スウェーデン視察】 刑務所から釈放された者の大半が再犯に及ぶといった背景により、刑務所内で自由刑が執行されている受刑者を仮釈放前に刑務所外で生活させるバックドア施策は、受刑者の再犯リスク低減及び社会復帰の円滑化を目的として、2001年から釈放措置として行われている。釈放措置には、社会復帰訓練、治療施設入所、ハーフウェイハウス入所等があり、矯正保護庁が対象者に外出制限の条件を付して実施している。例えば、ハーフウェイハウスは、受刑者の支援および監督のために設置された矯正保護庁所管の宿泊施設であり、刑務所で刑期の半分を終了した者、再犯の恐れがなく、深刻な不良行為を行なう恐れがないこと、仕事や受けるべき教育・研修等がある者といった条件を満たしている受刑者が保護観察所の監督の下、刑務所と保護観察の移行措置として生活する施設である。また、受刑中も刑事施設内で受刑者の背景や特性に応じたプログラムが実施されており、例えば、中程度以上のリスクを抱える性加害事犯者(性加害累犯者、暴力や薬物依存が絡んだ複合的な性犯罪、子どもに対する性加害等)に対して行われる、Sexual offender program with individual focus (Seif)がある。このプログラムは小規模のパイロット研究によって効果検証がなされた後に、2019年からスウェーデンの性犯罪者を収容する刑務所および保護観察所において実施されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
自治体保健師への聞き取りにより、矯正施設入所経験者等の地域社会再統合支援に保健師が関わることのメリットとして次の点が示された。1) 保健師は、矯正施設入所経験者等の中には、IQ70-85程度の知的に、あるいは発達障がい等の課題がある者(自分が何に困っているのか表出することが苦手)が含まれることや、彼らの幼少期からの生活背景を理解することが容易、2) 保健師は健康支援の立場から対象者に関わることから、先述の1)のような者の受診に同行することで、医療者と対象者の“通訳者・翻訳者”として機能することが可能、就労支援等においても健康面からの見立てが可能、3) 先述の1)の状況について、特定妊婦への支援、新生児訪問等を通じて把握可能な立場にあることから、犯罪リスクにつながるような生活状況に対して予防的に関わることが可能、4) 制度の狭間にいる人々(医療観察法による支援終了後、地域的着支援センターによる出所直後の支援・調整終了後等)への対応が可能、5) 保健師が行う「地域づくり」活動の中に矯正施設入所経験者支援を取り込むことが可能。一方で、次のような課題も示された。6) 現場の状況(忙しさ)によって、本人あるいは関係機関から相談があれば制度や施設につなぐこところまでは対応するが、それ以降は丁寧に関わることができていない、7)本人から「困っている」表出がない場合には関わることが困難、8) 保護観察所や福祉分野等から本人の背景情報提供や保健師に何を期待しているのか(週1回のモニタリング訪問をしてほしい等)、具体的に示されないと、支援の優先順位を高くして対応することが困難。 しかし、「司法と保健の支援窓口」の具体的な運用については、十分に準備ができていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の中で、司法・福祉と保健の連携には、理念は理解できても実際の現場の状況がボトルネックになっていることが示された。2024年度は、連携会議をベースに、具体的に「司法と保健の支援窓口」運用に係る関係者の共通理解と実装モデルの開発を継続する予定である。 1. 連携会議メンバー(長崎刑務所、長崎地方検察庁、長崎県弁護士会、長崎県保護観察所、保護司、長崎県地域生活定着支援 センター職員、長崎県福祉保健部担当者、保健所保健師、市町保健師、長崎県社会福祉協議会、長崎労働局、長崎県就労支援事業者機構)らと支援窓口に係る協議・試行を継続する。(主担当:大西) 2. 上記1のメンバーを支援窓口のステイクホルダーとし、定期的な勉強会を継続する。(主担当:川崎) 3. 司法分野と地域保健分野に加え、就労支援、住居確保支援に係る関係者らも含めた連携・協働の実装モデル案を開発する。(主担当:大西 ) 4. 2023年度から、厚労省委託事業である「地域生活定着支援人材養成研修・広報啓発事業」における福祉分野と保健分野(保健師)の連携・協働 体制の実装化について協議し、研修を開始しており、本研究課題ともあわせて総合的に実装に向けての精錬を図る。
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