2022 Fiscal Year Annual Research Report
心の健康増進をめざしたストレス感受性の生物学的基盤の解明
Project/Area Number |
22H03532
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
内田 周作 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10403669)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ストレス / うつ病 / エピジェネティクス / 個体差 / アンヘドニア / 社交性 / 神経回路 / 分子メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ストレス感受性の個体差・多様性をうみだす生物学的基盤を多階層的アプローチにより解明することである。従前の疾患モデル動物を用いた基礎的研究において、症状の個体差や精神疾患の異種性は注目されてこなかった。この状況を打破し、従来の基礎研究では見過ごされていた個体差に着目し、精神症状の多様性をうみだすメカニズムとしてのエピゲノム制御を基軸とした階層横断的な視点から、ストレス病態の分子・神経基盤を明らかにする。具体的には、行動変容の個体差に基づくエピゲノム変容を抽出し、症状発現に関わる神経回路選択的な分子神経メカニズムを解明することで、神経回路選択的なエピゲノム修飾の操作による個体のストレス制御法を確立することを目的とする。2022年度は、心理・社会ストレス負荷マウスを行動指標によりサブタイプ分類し、内側前頭前野を起点とした2つの神経回路が異なる行動(社会機能異常とアンヘドニア)を誘発することを確認した。具体的には、社会性敗北ストレス負荷マウスを社会性試験とスクロース嗜好性試験に供し、各行動指標においてレジリエンス群と感受性群に分類した。社交性低下のみ、アンヘドニアのみ、社交性低下とアンヘドニアの両方を示す個体に層別化した。これら層別化マウスにおける神経活動評価を行ったところ、2つの神経回路が異なる行動(社会機能異常とアンヘドニア)を制御している可能性を見出した。そこで薬理遺伝学的手法を用いて介入操作を行い、神経回路と行動との因果性を確認した。さらに、分子レベルの解析として、4つのサブタイプ分類されたマウスの内側前頭前野におけるエピゲノム修飾(KDM5Cの基質となるヒストンH3K4メチル化修飾)の変容を確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ストレス対処行動発現の個体差に関わる神経パスウェイを同定し、その神経パスウェイ変容の分子メカニズムとしてKDM5Cを介したエピジェネティクス制御の存在を示唆する結果を得ている。2年目の実験の準備も整っており、研究は予定通り順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度に得られた神経回路変容と行動との関連をさらに検証する。行動変容の表出が特定神経回路障害に起因するならば、回路障害の原因となる分子経路を修復すれば精神症状は消失するとの仮説を検証する。2023年度は、申請者が既に確立している高精度な神経回路選択的エピゲノム編集技術を用いて、課題1・2で見出した遺伝子と申請者が既に見出している遺伝子におけるエピゲノム修飾(ヒストンH3K4メチル化修飾)を操作することで、神経活動変容と狙った特定の症状(社交性低下・アンヘドニア)が改善できるかを検証する。これまでに同定した特定遺伝子のエピゲノム編集操作を行うため、ヒストン修飾編集を可能とするウイルスを目的神経回路で発現するマウスを作製する。このマウスにストレスを負荷し行動評価を行うことで、症状発現の基盤となるエピゲノム変容の直接的な役割を検証する。本実験によって神経回路選択的エピゲノム修飾の操作によって、神経活動・行動変容を制御可能なことが世界に先駆けて立証できる。
|