2022 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation on chemical mechanisms responsible for long-term carbon sequestration in sediment of shallow coastal vegetated habitats
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22H03717
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮島 利宏 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (20311631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 隆志 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (20513641)
浜口 昌巳 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (60371960)
堀 正和 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(横浜), グループ長 (50443370)
木田 森丸 神戸大学, 農学研究科, 助教 (70903730)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 海洋堆積物 / 沿岸湿地生態系 / 炭素隔離 / 難分解性有機物 / 免疫学的検出法 |
Outline of Annual Research Achievements |
海草藻場や塩性湿地等の浅海域植生帯の堆積物は、植生帯の一次生産に由来する有機炭素の大規模な貯留の場となっており、地球規模の二酸化炭素吸収源として注目されているが、堆積物中に炭素が貯留されるための条件となる有機炭素の難分解化のメカニズムに関しては十分な理解が得られていない。本研究課題では、潜在的な重要性にもかかわらず研究が立ち後れている硫黄サイクルとの相互作用の観点に特に注目して浅海域植生帯の堆積物における有機炭素貯留のメカニズムの解明を目指し、1,沿岸植生帯堆積物の実地調査、2.有機炭素長期貯留の数値モデル、3.免疫学的検出手法の開発という3つの方面から研究に取り組んでいる。 初年度の2022年度はまず堆積物中での非生物学的な加硫反応による有機物難分解化への寄与を定量的に明らかにするために、東京大学大気海洋研究所において有機態硫黄を分離精製するための試料処理ラインを構築するとともに、既設の質量分析設備を改良して硫黄安定同位体比の高精度測定を可能にする作業を行い、アーカイブ試料に適用して性能確認と再現性の検証を行った。一方、堆積物中の硫黄の酸化還元反応と有機物との相互作用を記述する鉛直一次元の数理モデルの開発に着手し、亜熱帯海草藻場(石垣島吹通川河口域)をモデルシステムとして、モデルに必要となる基礎的な現場データの収集を進めた。また並行して、有機硫黄化合物に対する免疫学的検出(サンドイッチELISA)を行うために必要となる設備の整備を進め、そのための基質として、現場で堆積物中に観察されるものと同様の有機硫黄化合物を実験室内で人為的に生成させる方法の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
実績の概要に記載した既設の質量分析設備の改良作業において、当初から予定して作業を進めていた測定機器に仕様上の問題があって硫黄同位体比の高精度分析に適さないことが判明したため、年度途中から別の装置を使うべく方針変更を余儀なくされた。また従来から質量分析装置の運用に不可欠なヘリウムガスの流通が世界的に停滞して迅速な入手が困難になっている状況も、本研究の進捗に悪影響を与えている。このため特に実績の概要に記した活動の3方面のうち、「1.沿岸植生帯堆積物の実地調査」に遅れが発生している。 また、「3.免疫学的検出手法の開発」の部分を担当している分担者がたまたま本年度から別の研究機関(福井県立大学)に異動となったため、計画した研究自体は継続可能であるものの、必要な研究設備の動作確認や、場合によっては新規構築から着手しなければならなくなり、そのために時間を取られたため本研究のタイムスケジュールを数か月遅らせざるを得なくなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況の欄に記載した分析装置の適合性の問題に関しては2022年度中に解決されて実試料の分析に入る見込が立っているが、ヘリウムガスの流通問題は依然として継続し、むしろ悪化する兆候も見られ、硫黄安定同位体比の分析作業の進捗にはなお予断を許さない状況となっている。このため、2023年度からは質量分析に加えてヘリウムに依存しない赤外線分光分析を新たに採用し、質量分析と並行して堆積物の有機物構造解析や、植生帯植物の分解過程のキャラクタリゼーションに応用していくことを計画している。同様に、堆積物続成過程の指標であるアミノ酸ラセミ化率の評価のためにGC-MSを用いる計画であったが、これもヘリウム供給に依存する装置であるため、GC-MSに加えてHPLCによる光学異性体分析を導入することを検討している。これらのために本事業予算の使用計画も次年度以降一部変更する可能性がある。 一方、本研究の当初計画では従前の研究プロジェクトにより得られている瀬戸内海を中心としたアーカイブ試料をベースにして技術開発等の研究を進める一方、モデル開発にあたってはおもに沖縄の浅海域植生帯(海草藻場・マングローブ)を対象システムとして開発を進める予定であった。しかし2023年度から研究代表者らが共同研究者として参画する別の新しい研究プロジェクトが発足する見込となったことから、それに連動する形で主要調査サイトの変更もしくは追加を検討している。
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