2022 Fiscal Year Annual Research Report
Comprehensive Studies on Tibetan Muslims in Western Himalaya
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22H03821
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
小倉 智史 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40768438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
海老原 志穂 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (30511266)
杉山 雅樹 京都外国語大学, 外国語学部, 非常勤講師 (30773824)
宮坂 清 名古屋学院大学, 国際文化学部, 准教授 (50734000)
星 泉 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (80292994)
熊谷 瑞恵 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 連携研究員 (80625830)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヒマラヤ西部 / バルティスタン / チベット系ムスリム / 牧畜 / ヌールバフシーヤ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度となる2022年度は、複数の分担者の所属校における校務や、新型コロナウイルス感染症の影響といった理由から、現地での調査を行うことができたのが、代表者の小倉と、人類学班の熊谷(以下、敬称略)に限られた。小倉は8月にバルティスタン地方のスカルドゥおよびハプルーを訪れて、今後の本格的調査に向けての現況調査を行った。特にハプルーでは、毎週木曜日にスーフィー教団の修行場で行われているズィクル(神の名を唱える修行)を、動画撮影することができた。また、スカルドゥ郊外でバルティ語復興運動を行っている、ユースフ・フサイナーバーディー氏と面会して意見交換を行った。また、2023年1月には、カラチのバルティ人居住区を訪れて、現地の状況を調査するとともに、ヌールバフシーヤのマドラサを訪れて、所蔵されている書籍・写本やマドラサでの教育内容について調査した。 熊谷はハプルーに一週間ほど滞在して、現地での家畜の所有、その世話の仕方、ひとびとの日々の食事、つきあいの内容、宗教的な所作を参与観察し、聞き取りをおこなった。また、ハプルーから北に向かった場所にある、フーシェ、カンデにおいても、同様の参与観察と聞き取りを行った。また、今後の長期調査に備えて、現地の滞在許可のとりかたを確認した。 杉山はイスラマバード、ラホールのヌールバフシーヤの修行場を訪れて、現在のヌールバフシーヤにおける内部分裂の影響や、ヌールバフシュの教義がどのように実践されているかについて、聞き取り調査を行った。 イスラーム班の小倉と杉山は、ムハンマド・ヌールバフシュの著作のうち、『光性の書』のZoomを利用した講読・分析を開始し、初年度は全体の4分の1程度を講読した。 また、年度末にオンラインで各班合同の研究会を実施して、初年度の成果報告や今後の研究の進め方についての意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
イスラーム班は概ね初年度に予定していた通りの調査を行うことができたものの、言語学班、人類学班は所属校の校務やコロナ禍の影響などにより、現地調査に参加できなかった分担者がいた。校務の問題は次年度以降に軽減されることが事前に判明しており、またコロナ禍も世界的に鎮静化へと向かっているので、この状況は2023年以降には好転することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
小倉が2023年1月のカラチ調査を実施した際に、マドラサにおいてアラビア文字表記バルティ語の、ヌールバフシュ著『信仰箇条の書』テキストを入手した。このテキストは十分な分量のあるバルティ語の文字資料であるのみならず、アラビア文字で表記されていて、イスラームを主題にしている点でも、貴重な資料である。次年度以降はこのバルティ語版『信仰箇条の書』を取り上げて、イスラーム班と言語学班の共同で、バルティ語語彙の文字表記の仕方や、当該文献における文法的特徴、アラビア語・ペルシア語からの借用語の頻度などについて分析を進めていく。イスラーム班は引き続き、『光性の書』の講読も進める。 言語学班は現地で基礎的な語彙調査を実施する。また、分担者がこれまで牧畜民の生活について多くの業績をあげてきたことから、バルティスタン地方のヤク、ゾ、ヤギなどの放牧地を訪れて、今後の屠畜や乳製品の加工といったテーマに関する調査を行うための準備を進める。人類学班は現地での長期滞在を実施して、親族名称や宗教実践、家畜の扱いなどに関する参与観察を行う。また、インド側のラダック地方での調査も開始する。
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